自筆証書遺言ってどんなもの?特徴や作成のポイントも解説
「自分の大切な人が安心して暮らせるように」と願うのは、誰しもが持つ気持ちでしょう。その願いを叶えるために、遺言の作成は非常に重要です。中でも、自筆証書遺言は、費用をかけずに自分の手で遺言を作成できる手軽さが魅力です。
しかし、その手軽さの裏には、形式的な要件や紛失のリスクなど、注意すべき点も数多く存在します。この記事では、自筆証書遺言の特徴やメリット・デメリット、そして、より安全に遺言を残すための「自筆証書遺言書保管制度」について詳しく解説します。遺言書の作成を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
自筆証書遺言は遺言者が手書きで作成するもの
遺言書は、自分が死亡した後の財産をどのように処分するか、誰に相続してもらうかを自分で決めておくための書類です。遺言書の種類は、大きく分けて次の3つです。
- ● 自筆証書遺言
- ● 公正証書遺言
- ● 秘密証書遺言
このうち自筆証書遺言とは、全文を自分で手書きし、署名と日付を記載して作成する遺言書を指します。費用が掛からず、いつでも手軽に作成できますが、要件を満たしていないと無効になってしまうため、注意が必要です。
自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言のメリットは、主に以下の3点です。
- ● 費用がかからない
- ● 誰にも知られずに作成できる
- ● いつでも作成・変更できる
自筆証書遺言の最大のメリットは、費用をかけずに手軽に作成できる点です。公証人など専門家の手を借りる必要がないため、誰にも相談せず、自分の意思を明確に遺言に反映させられます。また、作成方法がシンプルであるため、内容の変更や追加も比較的容易です。
自筆証書遺言のデメリット
自筆証書遺言のデメリットは、主に以下の4点です。
- ● 法律の要件を満たしていないと無効になる可能性がある
- ● 紛失のリスクがある
- ● 発見された際に、改ざんされるリスクがある
- ● 相続開始後に家庭裁判所で検認手続きが必要となる
全文を自筆で書ける点はメリットですが、日付や署名を正確に記載するなど、法的に定められた形式要件を満たす必要があります。少しでも形式に欠けると、遺言が無効になる可能性があるため、せっかくの遺言が無駄になってしまうこともあります。
また、自筆証書遺言を遺言者自身が保管していることが多く、相続人が存在を知らずに、発見が遅れる可能性もゼロではありません。そして、ほかの種類の遺言に比べて偽造や変造されるリスクが高いため、自分の意思が反映できない結果となる危険性もあります。
デメリットを解消した自筆証書遺言書保管制度
自筆証書遺言のデメリットを解消するために、近年注目されているのが「自筆証書遺言書保管制度」です。この制度を利用すれば、作成した自筆証書遺言を法務局に保管してもらえます。
そのメリットは以下のとおりです。
- ● 遺言の存在が確実に証明される
- ● 偽造・変造のリスクが低減する
- ● 検認の手続きが不要となる
法務局に保管することで、遺言の存在が確実に証明され、相続開始後に遺言書が見つからないというリスクを軽減できます。また、法務局で厳重に管理されるため、偽造や変造されるリスクが大幅に低減します。:通常、自筆証書遺言は相続開始後に家庭裁判所による検認の手続きが必要ですが、法務局に保管している場合は、この手続きが不要となるのです。
ただし、自筆証書遺言書保管制度を利用した方といって、内容の有効性を保証するものではないため、利用を検討する際は、事前に弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
法的に有効な自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言は、ご自身の意思で財産を相続人にどのように渡すかを決められる手軽な方法です。しかし、法的に有効な自筆証書遺言を作成するには、いくつかの厳格な要件を満たす必要があります。
その具体的な要件は以下のとおりです。
- ● 全文を自筆で書く
- ● 署名をする
- ● 日付を明記する
- ● 印鑑を押す
- ● 訂正する場合はルールを守る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
全文を自筆で書く
自筆証書遺言の最も重要な要件は、全文を自筆で書くことです。パソコンで作成したり、誰かに代筆してもらったりすると無効となります。遺言の内容はすべて、ご自身の筆跡で書き記す必要があります。もちろん、日付や氏名も自筆です。
署名をする
遺言書に署名をすることも必須です。署名は、戸籍に登録されている正式な氏名を自筆で記入しましょう。
日付を明記する
遺言書を作成した日付を必ず明記しましょう。日付は、西暦(もしくは元号)と年月日を正確に記載する必要があります。例えば「〇月吉日」などと書くと無効になってしまいます。また「〇月〇日」のみで年を書き忘れた場合も無効になるため、漏れがないようにしましょう。複数の遺言書がある場合は、新しい日付のものが有効となります。
印鑑を押す
自筆証書遺言には、原則として印鑑を押す必要があります。実印でなくても、認印や銀行届出印、拇印や指印でも有効です。このことは最高裁の判決でも認められています。
訂正する場合はルールを守る
遺言書を作成後に内容を訂正する場合は、間違った部分を二重線で消し押印します。正しい文言は、吹き出しを使って書き加えます。そのうえで余白部分に「上記2字削除、4字追加」と書いて横に署名が必要です。
自筆証書遺言書保管制度を利用する際は様式を守って
自筆証書遺言書保管制度を利用する際は、法務局で定められた様式を厳守しましょう。様式に沿って作成できていない場合は、受理されない可能性があるからです。
書き方の見本は、法務局のホームページに掲載されています。見本を参考に作成しましょう。
画像引用:法務局|遺言書の様式等についての注意事項
自筆証書遺言を作成する際のポイント3つ
自筆証書遺言を作成する際のポイントを3つ紹介します。
- ● 財産を把握するための書類を集める
- ● 誰に何を相続させるかを明記する
- ● 遺言執行者を指定する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
財産を把握するための書類を集める
遺言を作成する前に、所有している財産を正確に把握することから始めましょう。銀行口座、不動産、有価証券など、すべての財産についての書類を集めます。必要なものを表にまとめたので参考にしてください。
必要なもの | 補足説明 |
紙とペン | 用紙の種類は特に指定なし サイズはA4 裏面には何も記載しない |
印鑑 | 認印も可(印鑑登録しているものをおすすめします) |
財産目録(任意) | 不動産の登記簿預貯金通帳、取引明細書証券会社やFX会社、仮想通貨交換所における取引資料ゴルフ会員権の証書生命保険証書絵画や骨董品など動産の明細書 |
戸籍謄本(任意) | 相続人の確認などに役立ちます。 |
遺言書を書く紙の種類は自由ですが、サイズはA4です。耐久性があり改ざんされにくいものが望ましく、インクは消えないものを使用しましょう。
財産の内容を詳細に記載した財産目録の作成は、パソコンを使用できます。コピーを添付する場合は、内容が明確に読み取れるよう、鮮明にコピーされているか確認しましょう。
誰に何を相続させるかを明記する
遺言では、誰にどの財産を相続させるのかを具体的に記載する必要があります。相続人となる人の氏名、続柄、相続させる財産を明確にしましょう。
- ● 相続人:配偶者、子供、親など、相続人となる人の氏名と続柄を正確に記載する
- ● 相続財産:具体的にどの財産を相続させるのかを明記する
例えば「預金口座〇〇銀行〇〇支店 口座番号〇〇〇の全額を長男の太郎に相続させる」のように記載しましょう。曖昧に書くと、せっかく遺言書を残しても、それがトラブルのもとになってしまう可能性があります。
遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実行する人を指します。遺言執行者を指定することで、相続の手続きがスムーズに進みやすくなるからです。信頼できる人に遺言執行者を依頼しましょう。
遺言執行者は、未成年と破産者以外であれば誰でもなれます。遺言者の配偶者や子どもなど相続人のなかから指名しても良いですし、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのも可能です。また、遺言執行者に指名されても、断ることもできます。
遺言執行者を選任するかの判断は遺言者の自由です。ただし、遺言の内容に「相続人廃除」や「認知」の記載がある場合は、遺言執行者が必要です。
自筆証書遺言に関する疑問はひろしま相続・不動産ホットラインに相談を
自筆証書遺言は、遺言者が全文を手書きで作成し、署名と日付を記載したものです。費用がかからず、秘密裏に作成・変更できるのがメリットです。一方で、法的要件を満たさないと無効になったり、紛失・改ざんのリスクがあったりと、デメリットもあります。
このように、自筆証書遺言は手軽に作成できる一方で、法的効力を持たせるためには細心の注意を払う必要があります。遺言書を作成する際は、財産と相続人を明確にし、法的要件を満たすよう注意深く作成しましょう。
大切な財産を確実に引き継ぐためには、専門家に相談することをおすすめします。もし作成に関して疑問がある場合は、ひろしま相続・不動産ホットラインにお気軽にお問い合わせください。