相次相続控除とは?10年以内に相続が続いた場合の税額軽減を徹底解説
短期間のうちに相次いで相続が発生すると、同じ財産に対して何度も相続税が課されることになります。遺族にとって、立て続けに発生する相続税の負担は非常に重いものです。こうした負担を軽減するために設けられているのが「相次相続控除」という制度です。
本記事では、相次相続控除の基本的な仕組みから適用要件、具体的な計算方法や申請手続きまで詳しく解説します。また、実際に適用する際の注意点やよくある疑問についても取り上げます。ぜひ参考にしてください。
相次相続控除とは
相次相続控除とは、10年以内に相次いで相続が発生した場合に、2回目以降の相続税額から一定額を控除できる制度です。相続税法第20条に定められており、短期間に複数回の相続が起こることによる過度な税負担を軽減することを目的としています。
相次相続控除が設けられた背景
たとえば、祖父が亡くなって父が相続し、その数年後に父も亡くなって子が相続するというケースを考えてみましょう。この場合、父は祖父から相続した財産に対して相続税を納めていますが、その財産を子が相続する際にも再び相続税が課されます。
短期間のうちに同じ財産に対して繰り返し相続税が課されると、相続人の税負担は著しく重くなります。相次相続控除は、このような二重課税に近い状況を緩和し、相続人の負担を公平にするために設けられた制度なのです。
数次相続との違い
相次相続と似た言葉に「数次相続」がありますが、この2つは全く異なる概念です。
相次相続とは、前述のとおり短期間に立て続けに相続が発生する状況そのものを指します。一方、数次相続とは、相続手続きが完了する前に相続人が亡くなってしまい、次の相続が開始されることです。
たとえば、父が亡くなった後、遺産分割協議が終わらないうちに相続人である母も亡くなってしまった場合、これは数次相続に該当します。相次相続控除は税制上の控除制度ですが、数次相続は相続手続き上の問題を指す用語です。
相次相続控除を受けるための3つの要件
相次相続控除の適用を受けるには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
・被相続人の相続人であること
・今回の相続開始前0年以内に前回の相続が発生したこと
・前回の相続で今回の被相続人に相続税が課されていたこと
それぞれ詳しく解説します。
被相続人の相続人であること
相次相続控除を受けられるのは、法定相続人に限られます。具体的には、配偶者や子、親、兄弟姉妹など、民法で定められた相続人であることが必要です。
重要なのは、相続人でない者が遺贈によって財産を取得した場合、相次相続控除は適用されないという点です。たとえば、被相続人の孫が養子縁組をしていない場合、遺言によって財産を受け取ったとしても、相次相続控除の対象にはなりません。
また、相続欠格や廃除によって相続権を失った人も、相次相続控除を受けることはできません。
今回の相続開始前10年以内に前回の相続が発生したこと
前回の相続(一次相続)から今回の相続(二次相続)までの期間が10年以内でなければなりません。この期間は、前回の被相続人が亡くなった日から今回の被相続人が亡くなった日までの期間で計算されます。
たとえば、祖父が2015年5月に亡くなり、父が2025年4月に亡くなった場合、10年以内なので要件を満たします。しかし、父が2025年6月に亡くなった場合は10年を超えるため、相次相続控除は適用できません。
なお、10年の期間が経過するほど控除額は段階的に減少する仕組みになっており、相続税の負担が時間の経過とともに緩和される設計となっています。
前回の相続で今回の被相続人に相続税が課されていたこと
今回亡くなった被相続人が、前回の相続において実際に相続税を課税されていることが必要です。前回の相続で相続税の申告をしていなかった場合や、基礎控除額以下で相続税が発生しなかった場合は、相次相続控除を適用できません。
ただし、前回の相続で相続税の申告はしたものの、配偶者の税額軽減などの特例によって最終的な納税額がゼロになった場合でも、相続税が「課された」ことには変わりないため、相次相続控除の要件は満たします。
相次相続控除額の計算方法
相次相続控除の計算は、やや複雑な算式を用いて行われます。控除額は、前回の相続で課された相続税額を基準に、一定の調整を加えて算出されるためです。
相次相続控除額は、以下の算式で計算します。
A × C / (B – A) × D / C × (10 – E) / 10
各記号の意味は以下のとおりです。
・A:今回の被相続人が前回の相続で課された相続税額
・B:今回の被相続人が前回の相続で取得した財産の価額
・C:今回の相続で財産を取得したすべての人の相続税の課税価格の合計額
・D:今回の相続でその相続人が取得した財産の課税価格
・E:前回の相続から今回の相続までの経過年数(1年未満切り捨て)
この算式は、前回納めた相続税額のうち、今回の相続財産に対応する部分を按分計算し、さらに経過年数に応じて逓減させる仕組みになっています。
相次相続控除の具体的な計算例
具体例を使って計算してみましょう。
【設定】
・2023年3月に祖父が死亡し、父が1億円の財産を相続
・父が前回の相続で納めた相続税額は2,000万円
・2025年5月に父が死亡(祖父の死亡から2年経過)
・父の相続財産の総額は1億5,000万円
・長男が5,000万円を相続
【計算】
A = 2,000万円(父が前回納めた相続税額)
B = 1億円(父が前回取得した財産)
C = 1億5,000万円(今回の相続財産総額)
D = 5,000万円(長男の取得額)
E = 2年(経過年数)
控除額 = 2,000万円 × 1億5,000万円 / (1億円 – 2,000万円) × 5,000万円 / 1億5,000万円 × (10 – 2) / 10
= 2,000万円 × 1億5,000万円 / 8,000万円 × 5,000万円 / 1億5,000万円 × 8 / 10
= 2,000万円 × 1.875 × 0.333 × 0.8
= 約1,000万円
この場合、長男は約1,000万円の相次相続控除を受けられることになります。
経過年数による控除額の変化
相次相続控除額は、前回の相続からの経過年数が長くなるほど減少します。具体的には、経過年数1年につき10%ずつ控除額が減る仕組みです。
・1年以内:控除額の100%
・2年以内:控除額の80%
・3年以内:控除額の70%
・5年以内:控除額の50%
・10年:控除額の0%
この逓減制度により、相続税の負担は時間の経過とともに自然に軽減される設計となっています。
相次相続控除の申請手続きと必要書類
相次相続控除を受けるには、相続税の申告時に所定の手続きを行う必要があります。
申告書への記載
相次相続控除を適用する場合、相続税の申告書とともに「第7表(相次相続控除額の計算書)」を提出しなければなりません。この計算書には、前回の相続に関する情報や控除額の計算過程などを詳しく記載する必要があります。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期限内に申告書を提出しなければ、相次相続控除を受けることができません。
必要な添付書類
相次相続控除の適用を受けるには、以下の書類を添付する必要があります。
1.前回の相続税申告書の控え
・被相続人が前回の相続で提出した申告書の写し
・納付した相続税額を証明するために必要
2.前回の相続に関する資料
・遺産分割協議書の写し
・財産の評価明細書など
3.今回の相続に関する通常の書類
・戸籍謄本
・遺産分割協議書
・財産評価に関する資料
前回の相続税申告書の控えを紛失している場合は、税務署に開示請求を行うことで写しを入手できます。ただし、開示請求には一定の手続きと時間が必要なため、早めに準備を始めることが大切です。
申告期限後でも適用可能
相次相続控除は、当初の申告で適用を忘れていた場合でも、申告期限から5年以内であれば更正の請求によって適用を受けることができます。相続税の申告後に相次相続控除の存在を知った場合でも、諦めずに税理士に相談することをおすすめします。
相次相続控除を適用する際の重要な注意点
相次相続控除を適用する際には、いくつか知っておくべきポイントがあります。特に注意すべきポイントは以下のとおりです。
・未分割でも適用できる
・兄弟姉妹間での相続でも適用できる
・同時死亡の場合は適用されない
・3回目以降の相続でも適用される
・相続税額がゼロになっても申告しなければならない
詳しく解説します。
未分割でも適用できる
相続財産の遺産分割協議が完了していない段階でも、相次相続控除を適用することは可能です。未分割の場合、民法の法定相続分で財産を取得したものとみなして控除額を計算します。
後日、遺産分割協議が成立して実際の取得額が確定した時点で、控除額に差異が生じた場合は修正申告または更正の請求を行います。
兄弟姉妹間の相続でも適用できる
相次相続控除は、親子間の相続だけでなく、兄弟姉妹間の相続でも適用できます。たとえば、父が亡くなって兄が相続し、その後兄が亡くなって弟が相続する場合にも、要件を満たせば控除を受けられます。
ただし、兄弟姉妹が相続人となる場合は相続税額が2割加算されるため、最終的な税負担の計算には注意が必要です。
同時死亡の場合は適用されない
交通事故などで親子が同時に死亡した場合、相次相続控除は適用されません。相次相続控除は、前回の相続が発生した後に今回の相続が発生することが前提となっているためです。
同時死亡と認定されるのは、死亡の前後関係が明らかでない場合です。死亡時刻に明確な前後関係があれば、たとえ数時間の差であっても相次相続控除の対象となります。
3回目以降の相続でも適用される
相次相続控除は、2回目の相続だけでなく、3回目以降の相続でも適用できます。ただし、控除の対象となるのは直前の相続で課された相続税額のみです。
たとえば、10年以内に祖父→父→子と3回の相続が続いた場合、子は父が納めた相続税額を基準に相次相続控除を計算します。祖父が納めた相続税額を直接控除することはできません。
相続税額がゼロになっても申告しなければならない
相次相続控除を適用した結果、相続税額がゼロになる場合でも、原則として相続税の申告書を提出する必要があります。ただし、相次相続控除のみを適用した結果として税額がゼロになった場合は、例外的に申告が不要となります。
一方で、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を併用して税額がゼロになった場合は、必ず申告書を提出しなければなりません。陥りやすいミスであるため、しっかり確認しておきましょう。
相次相続控除以外の主な税額控除
相次相続控除以外にも、相続税には様々な税額控除の制度があります。これらを併用することで、相続税の負担をさらに軽減できる可能性があります。代表的なものをそれぞれ見ていきましょう。
配偶者の税額軽減
配偶者が相続した財産のうち、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額までは相続税が課されない制度です。配偶者の生活保障という観点から設けられており、相続税対策として最も効果的な制度のひとつです。
未成年者控除
相続人が未成年者(18歳未満)の場合、18歳に達するまでの年数1年につき10万円を控除できます。たとえば、15歳の子が相続人となった場合、30万円(3年×10万円)の控除を受けられます。
障害者控除
相続人が障害者の場合、85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)を控除できます。障害者の生活保障を目的とした制度です。
外国税額控除
国外にある財産を相続し、その国で相続税に相当する税金を納めた場合、日本の相続税額から一定額を控除できる制度です。二重課税を防止することを目的としています。
贈与税額控除
相続開始前3年以内(2024年以降は順次7年に延長)に被相続人から贈与を受けて贈与税を納めた場合、その贈与税額を相続税から控除できます。相続財産に加算された贈与財産に対する二重課税を防ぐための制度です。
相次相続控除と他の特例の併用
相次相続控除は、他の税額控除や特例と併用することができます。ただし、併用する際には計算の順序に注意が必要です。
小規模宅地等の特例との併用
小規模宅地等の特例は、居住用や事業用の土地について、一定の要件を満たせば評価額を最大80%減額できる制度です。この特例を適用した後の相続税額から、相次相続控除を適用します。
小規模宅地等の特例によって課税価格が減少すれば、それに伴って相続税額も減少し、結果として相次相続控除額も変わることがあります。まずは相続税をきちんと計算してみてください。
取得費加算の特例との関係
相続した不動産を相続税の申告期限から3年以内に売却する場合、納めた相続税額の一部を不動産の取得費に加算できる「取得費加算の特例」があります。
相次相続控除を適用すると納める相続税額が減少するため、取得費加算の特例による節税効果も小さくなります。不動産の売却を予定している場合は、どちらの特例を優先すべきか、税理士と相談して判断することが重要です。
よくある質問
相次相続控除に関するよくある質問をまとめました。
前回の相続税申告書の控えを紛失した場合はどうすればよいですか?
税務署に「保有個人情報開示請求」を行うことで、過去に提出した申告書の写しを入手できます。請求から取得まで1か月程度かかることもあるため、早めに手続きを始めましょう。
相次相続控除を適用し忘れた場合、後から適用できますか?
申告期限から5年以内であれば、更正の請求によって相次相続控除を適用できます。適用漏れに気づいた時点で、速やかに税理士に相談することをおすすめします。
相続放棄をした場合でも相次相続控除は適用できますか?
相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされるため、相次相続控除を受けることはできません。相続放棄をする前に、相次相続控除の適用可能性も含めて総合的に判断することが大切です。
代襲相続の場合、相次相続控除は適用できますか?
代襲相続人が相次相続控除を受けられるかは、前回の相続における被代襲者の状況によります。被代襲者が前回の相続で相続税を納めていれば、代襲相続人は相次相続控除を適用できます。
まとめ
相次相続控除は、短期間に立て続けに相続が発生した場合の過度な税負担を軽減するための重要な制度です。10年以内に相続が続いた場合、要件を満たせば前回納めた相続税額の一部を控除できます。
相次相続控除の計算は複雑であり、他の特例との兼ね合いも考慮する必要があるため、相続税の申告に際しては相続税に詳しい税理士に相談するのがおすすめです。適切に活用すれば、相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
相次相続が発生した際には、まず相次相続控除の適用可能性を確認し、必要な書類を早めに準備することが大切です。疑問や不安がある場合は、専門家のサポートを受けながら、確実に控除を受けられるよう手続きを進めましょう。
