準確定申告とは?必要な人・不要な人、期限、手続きの流れ、必要書類を徹底解説
家族が亡くなった後、相続に関するさまざまな手続きが発生します。その中でも見落としがちなのが「準確定申告」です。準確定申告は、亡くなった方に代わって相続人が行う所得税の確定申告であり、通常の確定申告とは異なる期限やルールが定められています。
本記事では、準確定申告とは何か、申告が必要なケースと不要なケース、申告期限や具体的な手続きの流れ、必要書類まで詳しく解説します。期限を過ぎた場合のペナルティや、還付金の取り扱いについても説明しますので、相続が発生した際の参考にしてください。
準確定申告とは
準確定申告とは、年の途中で亡くなった方の所得税について、相続人が代わりに行う確定申告のことです。通常、確定申告は毎年1月1日から12月31日までの1年間の所得を翌年3月15日までに申告しますが、納税者本人が死亡した場合は本人が申告を行えません。
そのため、相続人(または包括受遺者)が被相続人に代わって申告と納税を行う必要があります。「準」という言葉が付くのは、通常の確定申告期間(1月1日〜12月31日)ではなく、1月1日から死亡日までの期間について申告するためです。
準確定申告と通常の確定申告の違い
準確定申告と通常の確定申告には、いくつかの重要な違いがあります。
まず、申告対象期間です。通常の確定申告は1月1日から12月31日までの1年間が対象ですが、準確定申告は1月1日から死亡日までの期間が対象となります。たとえば、6月15日に亡くなった場合は、1月1日から6月15日までの所得について申告を行わなければなりません。
申告期限も異なります。通常の確定申告は翌年の3月15日が期限ですが、準確定申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告しなければなりません。一般的には死亡日から4か月以内と考えてよいでしょう。
また、申告を行う人も異なります。通常の確定申告は本人が行いますが、準確定申告は相続人全員が共同で行う形をとります。相続人が複数いる場合は、代表者を決めて申告するケースが一般的です。
準確定申告の申告期限は4か月以内
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。「相続の開始があったことを知った日」とは、通常は被相続人の死亡を知った日を指します。
たとえば、4月10日に亡くなった場合、8月10日が申告期限です。期限日が土・日曜日、祝日にあたる場合は、その翌日が期限となる点も覚えておきましょう。
相続税申告の期限が10か月以内であることと混同しやすいため、注意が必要です。準確定申告は4か月以内、相続税申告は10か月以内と、両者の期限は異なります。
準確定申告書の提出先
準確定申告書の提出先は、被相続人(亡くなった方)の死亡時の住所地を管轄する税務署です。広島県の場合、以下の税務署となります。
・尾道税務署
・海田税務署
・呉税務署
・西条税務署
・庄原税務署
・竹原税務署
・廿日市税務署
・広島北税務署
・広島西税務署
・広島東税務署
・広島南税務署
・福山税務署
・府中税務署
・三原税務署
・三好税務署
・吉田税務署
相続人の住所地ではない点に注意してください。管轄の税務署がわからない場合は、国税庁のホームページで調べられます。
準確定申告が必要な人・不要な人
準確定申告は、すべての故人に対して必要なわけではありません。一定の条件に該当する場合にのみ申告義務が発生します。申告が必要なケースとそうでないケースを見てみましょう。
準確定申告が必要なケース
以下のいずれかに該当する場合、準確定申告が必要です。
・被相続人が自営業や個人事業主だった場合
・相続人が不動産収入を得ていた場合
・被相続人が給与所得者で年収2,000万円を超えていた場合
・2か所以上から給与を受け取っていた場合
・被相続人が株式の譲渡益や配当金を得ていた場合で、源泉徴収されていないものがある場合
・被相続人が土地や建物を売却し、譲渡所得が発生していた場合
不明な場合は、事前に税務署や本人に確認しておく必要があります。
準確定申告が不要なケース
被相続人が給与所得者で勤務先が1か所のみ、かつ年収2,000万円以下だった場合は、通常は年末調整で所得税の精算が完了するため、準確定申告は不要です。ただし、年の途中で退職して年末調整を受けていない場合は、還付を受けるために申告した方がよいケースもあります。
被相続人が公的年金のみを受給しており、その金額が400万円以下で、かつ年金以外の所得が20万円以下だった場合も申告は不要です。年金受給者の確定申告不要制度と同様の考え方が適用されます。
被相続人の所得が基礎控除額(48万円)以下だった場合も、所得税が発生しないため申告義務はありません。
相続人が相続放棄をした場合は、その相続人には準確定申告の義務は生じません。ただし、他の相続人がいる場合は、その相続人が申告を行う必要があります。相続人全員が相続放棄をした場合は、相続財産清算人が申告を行うこともあります。
申告は不要でも還付金を受けられるケース
準確定申告の義務がなくても、申告をすることで税金の還付を受けられる場合があります。
被相続人が年の途中で退職し、年末調整を受けていなかった場合は、源泉徴収税額が多く引かれている可能性があります。準確定申告を行うことで、払いすぎた税金が還付されることがあるのです。
被相続人の医療費が高額だった場合も、医療費控除の適用により還付金が発生することがあります。死亡日までに支払った医療費が一定額を超えていれば、控除の対象となる可能性があります。
被相続人が住宅ローン控除の適用を受けていた場合も、申告により控除の適用範囲内です。ただし、死亡日までの期間分に限られる点に注意が必要です。
生命保険料控除や地震保険料控除、寄附金控除なども、死亡日までに支払った分について適用を受けられます。還付の可能性がある場合は、税務署や税理士に相談してみるとよいでしょう。
準確定申告の手続きの流れ
準確定申告は、以下の4つのステップで進めていきます。
1.相続人の代表者を決める
2.必要書類を収集する
3.申告書を作成する
4.申告書を税務署に提出する
期限内に手続きを完了するため、早めの準備を心がけましょう。
1.相続人の代表者を決める
相続人が2人以上いる場合、まず代表者を決めることから始めてください。準確定申告は相続人全員の連名で行うのが原則ですが、代表者を選定することで手続きがスムーズに進みます。
代表者は、申告書の作成や税務署への提出、還付金の受け取りなどを取りまとめる役割を担います。一般的には、故人と同居していた相続人や、相続財産の管理を行う相続人が代表者となるケースが多いでしょう。
代表者を決めたら、他の相続人から委任を受けた旨を証明する書類(委任状など)を用意します。また、各相続人の氏名や住所、被相続人との続柄、法定相続分などを記載した「確定申告書付表」も作成が必要です。
なお、相続人がそれぞれ別々に申告することも認められています。その場合は他の相続人に申告内容を通知しなければなりません。実務上は連名で申告する方が効率的でしょう。
2.必要書類を収集する
準確定申告に必要な書類を集めます。被相続人の収入や控除の内容によって必要書類は異なりますが、主なものは以下のとおりです。
・被相続人のマイナンバーカードまたは通知カードのコピー
・被相続人の給与や年金の源泉徴収票
・医療費の領収書や医療費控除の明細書(医療費控除を受ける場合)
・保険会社から届く控除証明書(生命保険控除を受ける場合)
・収支内訳書または青色申告決算書(事業所得・不動産所得がある場合)
・相続人全員の本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)
なお、戸籍謄本など、相続人であることを証明する書類も求められる場合があります。分からない場合は税務署や税理士に相談してみてください。
3.申告書を作成する
必要書類が揃ったら、申告書を作成します。準確定申告では、通常の確定申告書に加えて「確定申告書付表(兼相続人の代表者指定届出書)」の添付が必要です。
確定申告書は、国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」を利用して作成できます。紙の申告書を使用する場合は、税務署で入手するか、国税庁のホームページからダウンロードしてください。
申告書の書き方で注意すべき点があります。申告書の氏名欄には「被相続人〇〇〇〇 相続人代表〇〇〇〇」のように、被相続人と相続人代表者の両方の氏名を記載します。住所欄には被相続人の死亡時の住所を記入してください。
所得金額は、1月1日から死亡日までの期間で計算します。給与所得であれば、その期間に支払われた給与の合計額をもとに計算し、事業所得であれば、その期間の収入と経費を集計してください。
所得控除についても、死亡日までに支払った金額が対象となります。社会保険料控除や生命保険料控除などは、死亡日までに実際に支払った金額を記入してください。
確定申告書付表には、相続人全員の情報を記載します。各相続人の氏名と住所、被相続人との続柄や法定相続分、相続分に応じた税額または還付金の額などを記入します。
4.申告書を税務署に提出する
作成した申告書を、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出します。提出方法は、持参、郵送、電子申告(e-Tax)のいずれかを選択可能です。
持参する場合は、税務署の窓口に直接持っていきます。不明点があればその場で質問できるメリットがありますが、混雑時期は待ち時間が長くなる可能性もあります。
郵送で提出する場合は、信書として送付するため、普通郵便または書留、レターパックなどを利用しましょう。提出日は消印日となるため、期限間際に送る場合は注意が必要です。控えを返送してもらいたい場合は、返信用封筒と切手を同封してください。
e-Taxを利用する場合は、相続人の電子証明書が必要です。マイナンバーカードとICカードリーダー、または対応したスマートフォンがあれば、自宅から申告できます。税理士に依頼する場合は、税理士が代理送信することも可能です。
納税額がある場合は、申告期限までに納付も行います。税務署の窓口や金融機関、コンビニエンスストア(30万円以下の場合)での支払いが可能です。支払い方法は、クレジットカードや振替納税など、複数の納付方法から選択できます。
準確定申告における所得控除の取り扱い
準確定申告では、所得控除の適用について通常の確定申告とは異なるルールがあります。控除を正しく適用するためにも、以下の点を押さえておきましょう。
医療費控除
医療費控除は、被相続人が死亡日までに支払った医療費が対象となります。被相続人の死後に相続人が支払った医療費は、準確定申告では控除の対象になりません。
ただし、死後に支払った医療費は、相続人自身の確定申告で医療費控除として申告できる場合があります。相続人が被相続人と生計を一にしていた場合、その医療費を相続人の医療費控除に含められるのです。
社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除
社会保険料控除と生命保険料控除、地震保険料控除は、いずれも死亡日までに支払った金額が控除対象となります。
たとえば、生命保険料を年払いで支払っていた場合でも、控除できるのは死亡日までの期間に対応する金額ではなく、実際に支払った金額です。前年中に1年分を前払いしていれば、その全額が前年分の確定申告または準確定申告の控除対象となります。
配偶者控除・扶養控除
配偶者控除や扶養控除は、死亡日時点の現況で判定するものです。被相続人の死亡日において、配偶者や扶養親族が控除の要件を満たしていれば、控除を受けられます。
年間の所得要件については、その年の1月1日から12月31日までの見積額で判定するのが原則です。しかし、実務上は死亡日時点での見込みで判断することになります。
障害者控除・寡婦控除など
障害者控除や寡婦控除、ひとり親控除なども、死亡日時点の状況で適用の可否を判断します。これらの控除が適用できる場合は、忘れずに申告書に記載しましょう。
基礎控除
基礎控除(48万円)は、月割り計算などは行わず、満額が適用されます。年の途中で亡くなった場合でも、48万円全額を控除可能です。
準確定申告の注意点
準確定申告を行ううえで、特に注意すべきポイントは以下のとおりです。
・還付金がある場合は相続人で分配する
・納税額がある場合も相続人で按分する
・前年分の確定申告も必要な場合がある
・税理士に依頼する場合は税務代理権限証書は必要
トラブルを避けるためにも、事前に確認しておきましょう。
還付金がある場合は相続人で分配する
準確定申告によって還付金が発生した場合、その還付金は相続財産として扱われます。相続人が複数いる場合は、法定相続分または遺産分割協議で決められた割合に応じて分配することになります。
還付金の受取方法は、確定申告書付表に記載した相続人代表者の口座に振り込まれる方法が一般的です。代表者が受け取った後、各相続人に分配するという流れになります。
なお、還付金も相続財産の一部となるため、相続税の課税対象となる点に注意が必要です。相続税申告の際には、還付金の金額を遺産に含めて計算してください。
納税額がある場合も相続人で按分する
準確定申告の結果、納税額が発生した場合は、各相続人が法定相続分に応じて負担するのが原則です。たとえば、納税額が40万円で相続人が配偶者と子2人(法定相続分は配偶者2分の1、子がそれぞれ4分の1)の場合、配偶者が20万円、子がそれぞれ10万円ずつ負担することになります。
ただし、遺産分割協議で納税額の負担割合を別途定めることも可能です。実際の負担者を明確にするため、確定申告書付表に各相続人の負担額を記載します。
前年分の確定申告も必要な場合がある
1月1日から3月15日までの間に亡くなった場合で、被相続人が前年分の確定申告をまだ済ませていなかったときは、前年分の確定申告も相続人が行う必要があります。たとえば、2月10日に亡くなった場合、前年1月1日から12月31日までの所得に対する確定申告と、当年1月1日から2月10日までの所得に対する準確定申告の2回分の申告が必要です。
この場合、両方の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内となります。期限内に2回分の申告を完了させなければならないため、早めに準備を始めましょう。
税理士に依頼する場合は税務代理権限証書が必要
準確定申告を税理士に依頼する場合は、「税務代理権限証書」を税務署に提出する必要があります。税務代理権限証書は、税理士が納税者の代理として税務手続きを行う権限を有することを証明する書類です。
税務代理権限証書には、相続人の情報と税理士の情報を記載し、相続人の署名または記名押印が必要となります。税理士事務所が書式を用意していることが多いため、依頼時に確認してください。
準確定申告の期限を過ぎた場合のペナルティ
準確定申告の期限(相続開始を知った日の翌日から4か月以内)を過ぎてしまった場合、以下のペナルティが課される可能性があります。
・無申告加算税
・延滞税
・青色申告の特典取り消しの可能性
それぞれ詳しく解説します。
無申告加算税
正当な理由なく申告期限までに申告しなかった場合、無申告加算税が課されます。税額の15%(納付税額が50万円を超える部分は20%)が加算されるため、納税額が大きい場合は相当な負担となるでしょう。
ただし、期限後であっても税務署の調査を受ける前に自主的に申告すれば、加算税は5%に軽減されます。期限を過ぎてしまった場合でも、できるだけ早く申告することが重要です。
延滞税
申告期限までに納税しなかった場合、延滞税が発生します。延滞税は、納期限の翌日から納付日までの日数に応じて計算される利息のような性質のものです。
延滞税の税率は年によって異なりますが、納期限から2か月以内は年率2.4%程度、2か月を超えると年率8.7%程度となります(令和6年の場合)。長期間滞納すると延滞税の金額も大きくなるため、早めの納付を心がけてください。
青色申告の特典取消の可能性
被相続人が青色申告者だった場合、期限内に適正な申告を行わなければ、青色申告の承認が取り消される可能性があります。青色申告の特典(青色申告特別控除、純損失の繰越控除など)が適用できなくなると、税額が増加することもあります。
準確定申告でよくある質問
準確定申告に関して、多くの方が疑問に思うポイントをQ&A形式でまとめました。
Q.年金受給者だった場合、準確定申告は必要ですか
公的年金のみを受給していた場合で、年金収入が400万円以下かつ他の所得が20万円以下であれば、原則として準確定申告は不要です。
ただし、年金から源泉徴収された税額がある場合、準確定申告を行うことで還付を受けられる可能性があります。医療費控除や社会保険料控除などを適用することで、払いすぎた税金が戻ってくることもあるのです。
Q.相続放棄をした場合、準確定申告は必要ですか
相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかったものとみなされるため、準確定申告の義務は生じません。
ただし、他の相続人がいる場合は、その相続人が準確定申告を行います。相続人全員が相続放棄をして相続人が誰もいなくなった場合は、相続財産清算人が申告を行うこともあります。
Q.e-Taxで準確定申告はできますか
はい、準確定申告もe-Tax(電子申告)で行うことが可能です。相続人がマイナンバーカードと電子証明書を持っていれば、自宅のパソコンやスマートフォンから申告できます。
e-Taxを利用する場合は、申告書に相続人の電子署名を付して送信してください。相続人が複数いる場合は、代表者が他の相続人から委任を受けて送信する方法もあります。
Q.準確定申告と相続税申告は別の手続きですか
準確定申告と相続税申告は、まったく別の手続きです。準確定申告は被相続人の所得税に関する申告であり、相続税申告は相続財産に対する相続税の申告です。
両者は期限も異なります。準確定申告は相続開始を知った日の翌日から4か月以内、相続税申告は10か月以内です。両方の申告が必要な場合は、まず準確定申告を済ませてから、相続税申告に取り組むというスケジュールになることが多いでしょう。
なお、準確定申告によって納付した所得税額は、相続税を計算する際に債務控除の対象となります。また、還付金がある場合は相続財産に加算されます。両者は関連している部分もあるため、あわせて確認しておくことが大切です。
まとめ
準確定申告は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内と短いため、相続が発生したら早めに準備を始めることが重要となります。準確定申告が必要かどうかは、被相続人の所得状況によって異なります。
申告義務がない場合でも、源泉徴収税額が多く引かれている場合や医療費控除を受けられる場合は、申告によって還付金を受け取れる可能性がある点に注意が必要です。被相続人の状況を確認し、申告した方がよいか判断しましょう。
期限を過ぎると無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性もあるため、余裕をもって手続きを進めてください。相続に関するさまざまな手続きと並行して行う必要があるため、早い段階から計画的に取り組むことが大切です。
