相続の相談を司法書士にするメリットと費用相場|できることと選び方を徹底解説
遺産の相続に対し、「自分では手続きが進められず困っている」という人は多いです。相続には煩雑な手続きが必要となる上、締め切りが設定されている手続きもあり、手に負えないと感じても無理はありません。
そのような時、頼りになる存在が司法書士です。司法書士は相続登記の専門家として、不動産が含まれる相続手続きにおいて中心的な役割を担っているのです。
本記事では遺産相続において、司法書士に任せられる手続きや、任せられない手続きなどを解説します。司法書士に依頼する際の費用相場や、信頼できる司法書士の選び方についても詳しく紹介します。参考にして、最小限の労力で遺産相続を済ませてしまいましょう。
司法書士が相続で対応できる業務の全範囲
遺産相続において、具体的に司法書士ができることは以下のとおりです。
● 相続登記と不動産名義変更手続き
● 家庭裁判所での手続きサポート
● 遺産整理業務(相続財産管理業務)
● 相続人調査と戸籍収集業務
● 生前対策と相続準備
● 遺産分割協議書の作成
● 相続放棄の手続き
上記はいずれも重要な手続きであり、司法書士に任せることで自分の負担が軽くなります。頼る必要を感じたら、任せてしまうのがおすすめです。
一方で、上記が遺産相続手続きの全てではありません。そのため遺産相続を完了するには、残りの手続きをカバーできる専門家にも同時に任せると良いでしょう。特に相続税の申告が必要な場合は税理士、相続人間で争いがある場合は弁護士との連携が必要になります。
相続登記と不動産名義変更手続き
司法書士には相続登記、及び相続登記に付随する手続きを任せられます。
相続登記とは相続した不動産(土地や家、賃貸物件など)の所有権を、法的に被相続人から相続人へと移すことです。具体的に任せられる手続きは、以下のとおりです。
● 戸籍謄本をはじめとした必要書類の取得
● 申請書など提出書類の作成
● 法務局への提出
● 固定資産税評価証明書の取得
● 登記事項証明書の確認
上記では必要書類とひとくちに記載していますが、実際の必要書類は多岐に渡り、すべて揃えるには手間がかかります。また、書類を揃える以前に、法的な関係者が誰であるかを整理するなどの作業も必要であるため、できるだけ司法書士に任せた方が良いでしょう。
さらに令和6年4月1日より、相続登記が義務化されました。元々相続登記は義務でなく、故人を不動産の所有者としたまま放っておかれるケースもありましたが、今後はそういった行為が許されなくなります。
正当な理由なく3年手続きしないでいると、10万円以下の過料を要求される可能性もあります。「いつかそのうち」と考えず、早めに済ませるのがおすすめです。相続登記の義務化により、司法書士への相談需要はますます高まっています。
家庭裁判所での手続きサポート
裁判所で行う手続きも、司法書士の業務です。具体的に依頼できることは、以下のとおりです。
● 相続放棄申請
● 自筆遺言書の検認
● 相続放棄の申述書作成
● 限定承認の申述書作成
相続放棄申請とは、文字通り相続を放棄する手続きです。遺産には借金など負の遺産もあるため、相続人が相続したくないと考える場合もありますが、放棄するには相応の手続きが必要です。
また、被相続人が残した自筆遺言書の検認も行います。遺言書は遺産相続において、法的に強い力を持つ書類です。そのため改ざんなどが行われないよう、裁判所で第三者(裁判所の職員)と開封しなければなりません。
いずれもさまざまな書類の取り寄せ、記入が必要であり、自分で行うと手間がかかります。しかし一方で、遺産相続において重要なことでもあるため、やらないわけにもいきません。
特に相続放棄は、相続開始より3ヶ月の期限が設けられているため、かけられる時間は有限です。また、遺言書の確認も迅速にすべきです。法的期限はありませんが、遺言書を見なければ各種手続きが進まないため、優先的に処理してください。期限を逃すと取り返しのつかない事態になる可能性があるため、早めの司法書士への相談が重要です。
遺産整理業務(相続財産管理業務)
遺産整理業務とは、相続する財産の管理や処分に付随するさまざまな事務処理のことです。法的に財産の管理や処分を行うには、具体的に以下の作業が必要です。
● 相続する財産の調査(価値の試算や価値を証明する書類の取り寄せなども含む)
● 遺産分割協議書の作成
● 預貯金の解約払戻し手続き
● 有価証券の名義変更
● 相続財産の換価手続き(不動産等の売却手続き)
● 各種保険金の請求手続き
● 公共料金等の名義変更手続き
上記すべてが、全員に必要と限っているわけではありません。しかしどれか1つの手続きだけでも、専門家でない場合は大きな労力が必要です。沢山の書類を集めたり作成したりしつつ、期限があるものは期限内に処理を終わらせるスピード感と、正確さが要求されます。
場合によっては手間をかけて自分で進めた挙句「完遂できなかった」「失敗した」という事態にもなりかねません。ぜひ司法書士に任せ、負担を軽減してください。司法書士に一括して依頼することで、手続きの漏れや期限切れのリスクを回避できます。
相続人調査と戸籍収集業務
相続人の調査も、司法書士に依頼できる業務です。
相続人とは遺産相続の権利を有する人ですが、具体的に誰が相続人であるかは法的に定められています。そのため、法定相続人に該当する人の洗い出しが必要になりますが、この調査を依頼できるのが司法書士です。
相続人調査では、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を収集し、法定相続人を確定します。戸籍の収集は一般の方には難しい作業で、古い戸籍は手書きで読み取りが困難な場合も多くあるのです。
また、調査の結果「法定相続人が遺産相続できる状態でない」と判断される場合があります。法定相続人が認知症などを患っている場合や、そもそも法定相続人が居ない場合などが該当します。すると、代理人や財産管理者の選定手続きが必要となりますが、この手続きも司法書士に依頼可能です。
相続人の中に行方不明者がいる場合の調査や、成年後見申立てが必要な場合も、司法書士が適切にサポートします。
生前対策と相続準備
生前対策を考えている場合も、司法書士の力を借りられます。
生前対策とは、被相続人が存命の段階で遺産相続の処理を進めておくことです。具体的には、以下のとおりです。
対策 | 内容 | メリット |
生前贈与 | 被相続人が存命の段階で、相続人に財産を引き継いでおく | ・被相続人の死後、財産について揉めずに済む ・節税になる(場合によっては節税にならないケースもあるため、専門家に相談推奨) |
遺言書作成 | 法的に有効な遺言書を作成しておく | ・被相続人の死後、財産について揉めずに済む ・法的効力を発揮する遺言書が作成できる ・遺言書紛失等のリスクが低減できる |
資産の組み換え | 資産をスムーズに受け取れるよう、保険金の受取条件を変更したり、不動産などの資産を現金に変えたりする | ・被相続人の死後、相続人が財産をスムーズに受け取れる ・被相続人の死後に行う事務手続きが減る |
任意後見制度 | 被相続人が認知症などにかかった場合に備え、任意の財産管理者を指定しておく | ・被相続人の死後、相続人が財産をスムーズに受け取れる ・被相続人本人でなくとも、預貯金の引き出しなどが行える |
家族信託 | 指定した家族に財産の管理、処分を任せる | ・相続後のシミュレーションができるため、被相続人が結論を出しやすくなる ・二次相続先まで指定できる |
遺産相続の手続きは煩雑ですが、煩雑になってしまう理由の一つに、被相続人が不在である点が挙げられます。被相続人が居ない状態での遺産相続は、誰も最終的な決定権を持っていないため、結論が出にくく揉め事になりやすいのです。
しかし生前対策を上手く利用すれば、相続後の揉め事や手続きが軽減されスムーズに相続を終えやすくなります。可能であれば司法書士の手を借りて、生前対策を進めておくと良いでしょう。生前対策は将来の相続トラブルを防ぐ最も効果的な方法です。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書の作成は、司法書士の重要な業務のひとつです。相続人が複数いる場合、遺産をどのように分割するかを決める遺産分割協議が必要になります。
遺産分割協議書は、以下の場面で必要となる重要な書類です。
● 相続登記の申請時
● 銀行口座の解約手続き
● 有価証券の名義変更
● 生命保険金の請求
司法書士は中立的な立場から、法的に有効な遺産分割協議書を作成します。法的要件を満たした適切な内容で作成することで、後々のトラブルを防ぐことができるでしょう。
相続放棄の手続きサポート
相続放棄は、相続財産に債務が多く含まれている場合に検討する重要な手続きです。司法書士は相続放棄の申述書作成から家庭裁判所への提出まで、一連の手続きをサポートできます。
相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し出なければなりません。相続人でなくなるため、債務を承継しないというメリットはあるものの、手続きに手間がかかるため司法書士に任せた方が良いでしょう。
なお、相続放棄は一度行うと撤回できないため、慎重な判断が必要です。相続財産の調査結果を踏まえ、相続放棄が最適な選択かどうかをアドバイスしてもらえるため、悩んでいるのであればぜひ相談してください。
司法書士では対応できない相続業務
遺産相続関連でも、司法書士にできないことはあります。具体的には以下のとおりです。
● 相続税申告
● 争族の解決
● 相続税の計算と節税対策
● 相続人間の代理交渉
上記のトラブルに悩んだ際もプロの手は借りられますが、司法書士には依頼できません。どれを誰に依頼できるのか、整理して覚えておきましょう。
相続税申告
相続税の申告は、司法書士でなく税理士に相談しましょう。
相続税の申告には、申告そのものの手続きだけでなく、実際の相続税額を算出する必要があります。しかし相続税の算出には、各資産に対して適切な税額の算出方法を知った上で、現実の状況に沿った的確な計算を行う力が要求されます。
そのため、税のプロである税理士でなければ対応は困難です。相続人の立場としても、相続税額が具体的にいくらなのか、早めに知っておいた方が何かとスムーズです。司法書士と同時に、税理士への相談も忘れないようにしてください。
そもそも、相続税の基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人数で計算され、これを超える場合は申告義務があります。申告期限は相続開始から10か月以内と定められているため、早めの対応が必要です。
争族の解決
争族とは簡単にいうと、遺産相続について相続人同士で話がまとまらず、言い争いのような状態になってしまうことです。弁護士であれば、法的に相続人の代理人となる権利があるため、交渉や調停を行えます。一方で、司法書士には代理権が無いため、相続人の代理となる行為はできません。
ただし、弁護士が介入したからと言って、争族が和やかに解決するとは限りません。場合によっては、弁護士が出てくることで誰かが心証を害し、より話が拗れる可能性もあります。
一方で、争族が解決しなければ遺産相続の話が進まないのも事実です。相続人同士で話し合いをする傍ら、弁護士の手を借りることも平行して考えるのがおすすめです。遺産分割協議がまとまらない場合や、遺留分侵害額請求が発生した場合は、早めに弁護士に相談しましょう。
相続税の計算と節税対策
相続税の計算や節税対策は、司法書士では対応できない税理士の専門分野です。相続税に関する業務は税理士法により税理士の独占業務とされており、司法書士が行うことはできません。税理士に相談すべき相続税関連業務は、次のようなものがあります。
● 相続税額の正確な計算
● 各種特例制度の適用検討
● 配偶者控除や小規模宅地等の特例の活用
● 生前贈与を活用した節税対策
● 相続税申告書の作成と提出
司法書士と税理士の連携が重要な場面では、司法書士が信頼できる税理士を紹介することで、スムーズな手続きが可能になります。相続財産に不動産が含まれる場合は、特に両者の専門知識を組み合わせることが効果的です。
相続人間の代理交渉
相続人間で意見が対立し、交渉や調停が必要になった場合、司法書士は代理人として交渉することはできません。これは弁護士の専門分野であり、弁護士法により弁護士の独占業務とされています。弁護士でなければ対応できない相続争いは、具体的には以下のとおりです。
● 遺産分割協議での意見対立
● 遺言書の有効性に関する争い
● 遺留分侵害額請求
● 相続人の廃除や相続欠格の主張
● 家庭裁判所での調停・審判手続き
ただし、司法書士は相続争いの予防には大きな役割を果たす存在です。適切な遺産分割協議書の作成や、生前の遺言書作成サポートを依頼したい場合は司法書士に相談すると良いでしょう。
相続相談・手続きを司法書士にしたケースの相場
相続登記を司法書士に依頼する場合の費用は、一般的に8万円~15万円程度が相場となっています。平成30年に日本司法書士会連合会が実施した報酬に関するアンケートでは、相続登記の報酬額の目安として、6~8万円程度という結果が出ています。費用の内訳は以下のとおりです。
● 司法書士報酬:5万円~10万円
● 登録免許税:固定資産評価額の0.4%
● 戸籍謄本等取得費用:5,000円~15,000円
● その他実費:数千円
不動産の評価額が高いほど登録免許税も高くなるため、総額は変動します。複数の不動産がある場合や、相続関係が複雑な場合は、追加費用が発生することもあります。
その他の相続手続き費用
司法書士には、以下のようなことも依頼できます。
業務内容 | 費用相場 | 備考 |
相続人調査・戸籍収集 | 3万円~8万円 | 相続人数や戸籍の通数により変動 |
遺産分割協議書作成 | 3万円~10万円 | 財産の種類や複雑さにより変動 |
相続放棄申述書作成 | 3万円~5万円 | 家庭裁判所への申立て費用別途 |
遺産整理業務一式 | 20万円~50万円 | 財産総額の1%程度が目安 |
ただし、司法書士に頼む業務が増えれば、その分報酬額も上がっていきます。場合によっては10万円以上になってしまうため、あくまで目安と捉えてください。
依頼の際は契約前に見積を取ってもらうと、より慎重に検討できます。まずは相談を行い、報酬額を概算してもらうのがおすすめです。複数の司法書士事務所で見積もりを取り、費用とサービス内容を比較検討することが重要です。
信頼できる司法書士の選び方
司法書士を実際に選ぶ際は、以下のポイントに注意しましょう。
● 対応可能な業務範囲の確認
● 料金体系の透明性
● 相続業務の実績と経験
● 他の専門家との連携体制
司法書士とひとくちに言っても、業務に対するスタンスは、個人によって多少バラつきがあります。まずは自分の依頼したいことを明確にし、予算を設定した上で相談に行くのがおすすめです。
対応可能な業務範囲の確認
相談の前に、依頼先の司法書士がどこまでの手続きに対応できるか調べましょう。詳細は、依頼先の公式Webサイトなどが参考になります。
本記事で前述した司法書士の業務範囲は、あくまで法的に可能な業務の説明です。司法書士によっては、得意業務の分野が偏っているなどのケースもあります。
まずは本記事を参考に、具体的に何を依頼したいのかリストアップするのがおすすめです。その上で、任せたいと思う業務をすべて任せられる司法書士を探すとスムーズです。
料金体系の透明性
料金体系が明確かどうかも、確認しておきましょう。Webサイトで業務ごとの報酬額を明記しているケースも多いため、目を通して自分で概算を出しておくと、より安心です。
契約前の見積も内容を読み、不明瞭な点があれば質問してください。業務ごとにいくらかかるかが分かれば納得感が生まれますし、後からトラブルになるリスクも低減できます。
相続業務の実績と専門性
司法書士を選ぶ際は、相続業務の実績と経験を重視しましょう。相続登記の件数や、相続関連業務の経験年数を確認することが重要です。
Webサイトに相続業務の実績や解決事例が掲載されている司法書士事務所は、相続業務に力を入れている証拠です。具体的な事例が紹介されていることで、安心感も得られます。
また、相続に関する書籍の執筆や講演実績がある司法書士は、専門知識が豊富で信頼できる場合が多いです。
他の専門家との連携体制
相続手続きでは、税理士や弁護士との連携が必要になることがあります。信頼できる他の専門家とのネットワークを持っている司法書士を選ぶことが重要です。
司法書士事務所のWebサイトに、連携している他の専門家について記載があるかを確認してみましょう。ワンストップでサービスを提供できる体制が整っていることが理想的です。
相続の相談は各分野のプロにお任せを!
相続の相談は、各分野のプロに任せるのがもっともスムーズです。司法書士は確かに、相続に対する業務の大部分を請け負いますが、司法書士さえいればすべて任せられるわけではありません。業務によっては税理士などに依頼する必要も生じます。それぞれ、適切な依頼先に頼みましょう。
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