負担付贈与とは?通常の贈与との違いやメリット・デメリット、税金の仕組みを徹底解説
「不動産を子どもに贈与したいけれど、住宅ローンが残っている」「財産を渡す代わりに介護をお願いしたい」といった場面で活用されるのが「負担付贈与」です。通常の贈与とは異なり、受贈者に一定の義務を課すことができる反面、税務上の取り扱いが複雑になるケースも少なくありません。
本記事では、負担付贈与の基本的な仕組みから課税関係、メリット・デメリットや契約書の作成方法まで詳しく解説します。負担付贈与を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
負担付贈与とは?基本的な仕組みを解説
負担付贈与とは、財産を贈与する際に、受贈者(財産をもらう人)に対して一定の債務や義務の負担を条件として課す贈与契約のことを指します。民法第553条において「負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する」と定められており、法的にも認められた贈与形態です。
たとえば、住宅ローンが残っている不動産を子どもに贈与し、残りのローンを子どもに引き継いでもらうケースが典型的な負担付贈与に該当します。
通常の贈与との違い
通常の贈与は、贈与者が一方的に財産を無償で渡すものであり、受贈者には何の義務も発生しません。これに対して負担付贈与では、受贈者が財産を受け取る代わりに、何らかの負担を引き受ける必要があります。
両者の主な違いを整理すると、以下のとおりです。
通常の贈与では、受贈者に義務が発生せず、贈与者は契約を一方的に撤回することが難しい場合があります。一方、負担付贈与では、受贈者がローンの返済や介護などの義務を負い、その義務が履行されない場合には贈与者が契約を解除できる可能性があるでしょう。
また、税務上の評価方法も異なります。通常の贈与で不動産を渡す場合は「相続税評価額」で評価されますが、負担付贈与の場合は「時価」で評価されるため、税負担が大きくなるケースがある点に注意が必要です。
負担付贈与の具体例
負担付贈与が行われる代表的なケースとして、以下のような事例が挙げられます。
・住宅ローン付き不動産の贈与
・介護を条件とした贈与
・事業承継に伴う贈与
あくまでも例であるため、詳細は専門家の判断を仰ぐことをおすすめします。
見落としやすい負担付贈与「賃貸物件の贈与」
意外と見落とされやすいのが、賃貸物件を贈与するケースです。アパートやマンションなどの収益物件を贈与する場合、入居者から預かっている敷金の返還義務も一緒に引き継がれることになります。
敷金返還義務は法的な「負担」に該当するため、たとえ借入金がなくても、賃貸物件の贈与は負担付贈与として取り扱われる可能性があるのです。賃貸物件の贈与を検討している場合は、敷金の存在を忘れずに確認しておきましょう。
負担付贈与における課税の仕組み
負担付贈与では、受贈者だけでなく贈与者にも税金が課される場合があります。通常の贈与とは課税の仕組みが異なるため、事前にしっかりと理解しておくことが重要です。
受贈者にかかる贈与税の計算方法
負担付贈与を受けた場合、受贈者には贈与税が課税されます。贈与税の課税価格は、贈与された財産の価額から負担額を差し引いた金額となるのです。
国税庁のタックスアンサーによると、負担付贈与の課税価格は次の算式で計算されます。
課税価格 = 贈与財産の価額 - 負担額
ここで注意すべきなのは、贈与財産の「価額」の評価方法です。土地や建物などの不動産を負担付贈与する場合、通常の贈与であれば相続税評価額(路線価や固定資産税評価額)で評価しますが、負担付贈与の場合は「通常の取引価額」、つまり時価で評価することになっています。
時価は一般的に相続税評価額よりも高くなることが多いため、負担付贈与では贈与税の負担が増える可能性がある点に留意が必要です。
贈与者にかかる所得税等について
負担付贈与では、贈与者側にも税金が発生するケースがあります。具体的には、受贈者が引き受けた負担額が、贈与者の取得費(購入価格)を上回る場合、その差額が「譲渡所得」として所得税および住民税の課税対象です。
たとえば、親が3,000万円で購入した不動産を子どもに負担付贈与し、子どもが2,000万円の住宅ローンを引き継いだとします。この場合、親は2,000万円で不動産を売却したのと同じ扱いになるため、取得費との差額に対して譲渡所得税が課税される可能性があるのです。
ただし、取得費が負担額を上回っている場合(つまり譲渡損が出る場合)には、贈与者に所得税は課税されません。
課税シミュレーション
実際の負担付贈与でどの程度の税金がかかるのか、具体的な数値例で確認してみましょう。
【前提条件】
・父親が所有するマンション(時価5,000万円、相続税評価額3,500万円、取得費2,500万円)
・住宅ローン残高2,000万円
・父親から子どもへ負担付贈与を行う
【子ども(受贈者)にかかる贈与税】
負担付贈与のため、不動産は時価で評価します。
課税価格 = 5,000万円(時価)- 2,000万円(ローン残高)= 3,000万円
贈与税額の計算(暦年課税、一般税率の場合): 3,000万円 - 110万円(基礎控除)= 2,890万円 2,890万円 × 45% - 265万円 = 約1,035万円
なお、親子間の贈与で特例税率が適用される場合は、税率が軽減されます。
【父親(贈与者)にかかる所得税等】
父親は2,000万円(ローン引受額)で不動産を譲渡したとみなされます。
譲渡所得 = 2,000万円 - 2,500万円(取得費)= △500万円
この例では譲渡損が出るため、父親に所得税は課税されません。
仮に取得費が1,500万円だった場合は、譲渡所得が500万円となり、所得税・住民税が課税されることになります。
負担付贈与のメリット
負担付贈与には、通常の贈与にはないいくつかのメリットがあります。具体的には、以下の3つです。
・受贈者に何らかの負担をしてもらえる
・負担が履行されない場合に契約を解除できる
・口頭でも契約が成立する
状況によっては非常に有効な財産移転の手段となり得ます。どのようなメリットがあるのか確認しておきましょう。
受贈者に何らかの負担をしてもらえる
最大のメリットは、財産を渡すだけでなく、受贈者に一定の負担を求められる点にあります。
たとえば、「不動産を贈与する代わりにローンを引き継いでもらう」「財産を渡す代わりに介護をお願いする」といった形で、贈与者の希望を契約に盛り込むことが可能です。単に財産を渡すだけでは実現できない取り決めを、負担付贈与によって法的な拘束力のある形で設定できるのは大きな利点といえるでしょう。
負担が履行されない場合に契約を解除できる
負担付贈与では、受贈者が約束した負担を履行しない場合、贈与者は契約を解除して財産の返還を求められる可能性があります。
民法第553条により、負担付贈与には双務契約の規定が準用されるため、受贈者が義務を果たさなければ、贈与者は民法第541条に基づいて契約を解除できるのです。通常の贈与では、いったん財産を渡してしまうと取り戻すことが難しいケースもありますが、負担付贈与であれば一定の保護が図られます。
ただし、負担の一部がすでに履行されている場合は、解除が認められないこともあるため注意が必要です。
口頭でも契約が成立する
贈与契約は、書面によらなくても口頭での合意だけで成立します。負担付贈与も同様であり、必ずしも契約書を作成しなくても法的には有効です。
とはいえ、後々のトラブルを防ぐためにも、契約書を作成しておくことを強くおすすめします。特に負担の内容が複雑な場合や、不動産などの高額な財産を贈与する場合は、書面で明確に取り決めを残しておくことが重要です。
負担付贈与のデメリット
負担付贈与にはメリットがある一方で、いくつかの注意すべきデメリットも存在します。代表的なものは、以下のとおりです。
・受贈者が負担を履行しないリスクがある
・不動産の負担付贈与は税負担が大きくなりやすい
・贈与物に瑕疵があるとトラブルになる恐れがある
安易に負担付贈与を選択すると、思わぬ不利益を被る可能性もあるため、デメリットについても十分に理解しておく必要があります。詳しく見てみましょう。
受贈者が負担を履行しないリスクがある
負担付贈与の最大のリスクは、受贈者が約束した負担を履行してくれない可能性がある点です。
財産を先に渡してしまった後で「やっぱり介護はできない」「ローンの返済が厳しい」と言われてしまうケースも考えられます。契約解除によって財産を取り戻せる場合もありますが、実際には交渉が難航したり、裁判になったりすることも珍しくありません。
このリスクを軽減するためには、契約書をしっかりと作成し、負担の内容を具体的かつ明確に定めておくことが大切です。
不動産の負担付贈与は税負担が大きくなりやすい
前述のとおり、不動産を負担付贈与する場合は時価で評価されるため、通常の贈与と比べて贈与税の負担が大きくなる傾向があります。
通常の贈与であれば相続税評価額(路線価方式や倍率方式)で評価されるため、実際の市場価格よりも低い評価額となることが多いです。しかし負担付贈与では時価評価となるため、評価額が上がり、結果として贈与税も高くなるのです。
さらに、贈与者側にも譲渡所得税が課される場合があるため、親子間であっても双方に税金がかかる可能性がある点に注意してください。
贈与物に瑕疵があるとトラブルになる恐れがある
負担付贈与では、民法第551条第2項により、贈与者は「負担の限度において」売主と同様の担保責任を負うとされています。
つまり、贈与した財産に欠陥や不具合があった場合、受贈者から損害賠償を請求される可能性があるのです。通常の贈与であれば、贈与者は原則として担保責任を負いませんが、負担付贈与では一定の責任が生じる点が異なります。
特に不動産の贈与では、建物の瑕疵や土地の境界問題などがトラブルの原因となることがあるため、事前に物件の状態をしっかりと確認しておくことが重要です。
負担付贈与契約書の作成方法
負担付贈与を行う際は、トラブル防止のために契約書を作成しておくことが望ましいです。ここでは、契約書に盛り込むべき主な項目と書き方のポイントを解説します。
前文(前置きとなる文章)
契約書の冒頭には、贈与者と受贈者を特定し、負担付贈与契約を締結する旨を記載します。
【記載例】
「贈与者○○○○(以下「甲」という)と受贈者○○○○(以下「乙」という)は、以下のとおり負担付贈与契約を締結する。」
贈与財産の内容
贈与する財産の詳細を明確に記載します。不動産であれば、登記事項証明書に記載されている所在、地番、地目、地積などの情報を正確に転記してください。
預貯金や有価証券の場合は、金融機関名と口座番号、金額などを具体的に記載しておくことが重要です。
負担の内容
受贈者が負う負担の内容を具体的に定めます。曖昧な表現は後のトラブルの原因となるため、できるだけ詳細に記載しましょう。
【記載例】
「乙は、本件贈与の負担として、甲が株式会社○○銀行から借り入れている住宅ローン(残高○○○○万円、○○年○月○日現在)の債務を引き受け、甲に代わって返済するものとする。」
なお、介護を条件とする場合は、介護の具体的な内容(同居の有無、介護の頻度、施設入所時の対応など)まで定めておくと安心です。
所有権移転登記に関する事項
不動産の負担付贈与では、所有権移転登記の手続きについても取り決めておきます。登記の時期、費用負担、必要書類の準備などについて明記しておくとよいでしょう。
契約解除に関する事項
受贈者が負担を履行しない場合の契約解除について、あらかじめ定めておくことも大切です。どのような場合に解除できるのか、解除後の財産の取り扱いはどうするのかなど、具体的に規定しておくことをおすすめします。
後文と署名押印
契約書の末尾には、契約書の作成通数を記載し、当事者全員が署名押印を行います。後日の紛争を防ぐためにも、実印での押印と印鑑証明書の添付を検討してもよいでしょう。
負担付贈与契約を解除する方法
負担付贈与契約を解除したい場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。解除の要件と手続きについて説明します。
負担が履行されない場合の解除
受贈者が約束した負担を履行しない場合、贈与者は相当の期間を定めて履行を催告し、それでも履行されなければ契約を解除することができます。
解除が認められるためには、受贈者の不履行が契約の趣旨に照らして軽微なものではないことが必要です。些細な義務違反では解除が認められないケースもあるため、注意が必要です。
また、負担の一部がすでに履行されている場合は、解除が制限されることがあります。裁判例では、介護の負担付贈与において、ある程度の介護が行われた後は契約解除が認められにくいとされた事例もあります。
当事者間の合意による解除
贈与者と受贈者の双方が合意すれば、いつでも契約を解除することが可能です。合意解除の場合は、解除の条件(財産の返還方法、負担の精算方法など)について協議のうえ、書面で合意内容を残しておくことが望ましいでしょう。
解除後の法律関係
契約が解除された場合、原則として各当事者は原状回復義務を負います。つまり、受贈者は贈与された財産を返還し、贈与者は受贈者が負担した費用などを返還することになるのです。
不動産の場合は、所有権移転登記の抹消登記が必要となるほか、すでに支払われたローンの返済分の精算なども問題となり得ます。
負担付贈与を行う際の注意点
負担付贈与を成功させるためには、いくつかの重要な注意点を押さえておく必要があります。具体的には以下の4つです。
・事前に税金のシミュレーションを行う
・住宅ローンの引き継ぎには金融機関の承認が必要になる
・負担付死因贈与の場合は公正証書の作成を検討するべき
・専門家への相談を忘れない
詳しく解説します。
事前に税金のシミュレーションを行う
負担付贈与では、受贈者の贈与税だけでなく、贈与者の譲渡所得税も考慮する必要があります。事前に税理士などの専門家に相談し、具体的な税額をシミュレーションしておくことが重要です。
場合によっては、負担付贈与よりも通常の贈与や売買のほうが税負担を抑えられるケースもあるため、複数の選択肢を比較検討することをおすすめします。
住宅ローンの引き継ぎには金融機関の承諾が必要になる
住宅ローン付きの不動産を負担付贈与する場合、ローンの債務者を変更するためには金融機関の承諾が必要です。金融機関が承諾しない場合は、形式上は親がローンの債務者のままとなり、実質的な負担付贈与が難しくなることもあります。
また、金融機関の承諾なく勝手に名義を変更すると、契約違反として一括返済を求められるリスクもあるため、必ず事前に金融機関と相談してください。
負担付死因贈与の場合は公正証書の作成を検討するべき
贈与者の死亡を条件とする「負担付死因贈与」を行う場合は、公正証書で契約書を作成するのがおすすめです。
死因贈与は遺贈に関する規定が準用されるため、贈与者が亡くなった後に契約の有効性や内容について争いが生じることがあります。公正証書で作成しておけば、証拠力が高く、後のトラブルを防ぎやすくなります。
専門家への相談を忘れない
負担付贈与は、税務上の取り扱いが複雑であり、契約内容によっては法的なリスクも伴います。自己判断で進めるのではなく、税理士や弁護士、司法書士などの専門家に相談しながら進めることがおすすめです。
特に、高額な不動産の贈与や、複雑な負担条件を設定する場合は、専門家のサポートを受けることでトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
まとめ
負担付贈与とは、受贈者に一定の負担を課すことを条件とした贈与契約です。住宅ローン付き不動産の贈与や、介護を条件とした財産移転など、さまざまな場面で活用されています。通常の贈与との大きな違いは、受贈者に義務が発生する点と、不動産の場合は時価で評価される点にあります。
負担付贈与を検討する際は、事前に税額のシミュレーションを行い、契約書をしっかりと作成したうえで、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが大切です。本記事の内容を参考に、ご自身の状況に合った最適な方法を選択してください。
