生前贈与とは?メリット・注意点・非課税で贈与する8つの方法をわかりやすく解説
「生前贈与で相続税を減らせると聞いたけれど、具体的にどうすればいいかわからない」——そんな疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
生前贈与とは、存命中に財産を子や孫などへ無償で渡す行為を指します。計画的に活用すれば将来の相続税負担を大幅に軽減できる一方、やり方を誤ると税務署に否認されたり、かえって税負担が増えたりする恐れもあります。
本記事では、生前贈与の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、税金がかからない8つの方法、さらに2024年以降の税制改正の影響まで網羅的に解説します。これから生前贈与を検討する方は、ぜひ最後までお読みください。
生前贈与とは|仕組みと相続との違い
生前贈与は、贈与者(財産を渡す人)が生きている間に、受贈者(財産を受け取る人)へ財産を無償で移転する行為です。民法上の「贈与契約」にあたり、双方の合意によって成立します。
相続が「被相続人の死亡後に財産が引き継がれる」のに対し、生前贈与は「存命中に贈与のタイミング・金額・相手を自由に決められる」点が大きな違いです。贈与の対象となる財産は、預貯金・不動産・株式など相続の対象となるすべてが含まれます。
ただし、贈与を受けた財産には「贈与税」が課される場合があります。贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があり、どちらを選ぶかによって税負担が大きく変わるため、仕組みを正しく理解しておくことが重要です。
贈与税の2つの課税方式|暦年課税と相続時精算課税
生前贈与にかかる贈与税は「暦年課税」と「相続時精算課税」のいずれかで計算されます。両制度は非課税枠や最終的な精算方法が異なるため、自分の状況に合った方式を選ぶことが不可欠です。
暦年課税の仕組み
暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた金額に対して課税される制度です。受贈者一人あたり年間110万円以内の贈与であれば、贈与税は発生せず、申告も不要となります。
たとえば、親から子へ毎年110万円ずつ10年間贈与すれば、合計1,100万円を非課税で移転できます。届出が不要で原則として誰にでも適用されるため、最も基本的な生前贈与の方法として広く利用されています。
ただし、暦年課税の税率は相続税よりも高く設定されている点に注意が必要です。110万円を大幅に超える贈与では、贈与税のほうが割高になるケースがあります。
相続時精算課税制度の仕組み
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に限り選択できる制度で、贈与者一人あたり累計2,500万円まで贈与税が非課税となります。2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税が課され、贈与者が亡くなった際に贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算し、すでに支払った贈与税は差し引かれます。
2024年1月1日以降の贈与から、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が新たに設けられました。この基礎控除内の贈与は相続財産への加算が不要で、実質的に非課税で贈与できるようになった点が大きな改正ポイントです。
なお、一度この制度を選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税に戻すことはできないため、慎重な判断が求められます。
生前贈与を行う5つのメリット
生前贈与を活用することで得られる主なメリットを5つ紹介します。具体的には、以下のとおりです。
● 相続税の節税効果が期待できる
● 贈与する時期や相手を自分で選べる
● 相続トラブルの防止につながる
● 財産の値上がりリスクを回避できる
● 認知症対策としても有効
それぞれ詳しく解説します。
相続税の節税効果が期待できる
生前贈与の最大のメリットは、将来の相続財産を計画的に減らすことで相続税の負担を軽減できる点にあります。暦年課税の基礎控除110万円を活用すれば、贈与税を支払うことなく毎年少しずつ財産を次世代へ移していけるでしょう。
特に相続財産が多い方ほど相続税率が高くなるため、早期から財産を移転しておくことの節税効果は大きくなります。受贈者が複数いる場合はさらに効果が拡大し、たとえば3人の子や孫に毎年110万円ずつ贈与すれば、10年間で3,300万円もの財産を非課税で移転可能です。
贈与する時期や相手を自分で選べる
相続では遺言書がなければ法定相続分に従って財産が分割されますが、生前贈与であれば「誰に・何を・いつ」渡すかを贈与者自身がコントロールできます。
たとえば、子どもの結婚やマイホーム購入など、資金が必要なタイミングに合わせて贈与することも可能です。遺言でも相手を指定できますが、生前贈与は自分の手で確実に渡せるため、贈与者にとって大きな安心感があるでしょう。
相続トラブルの防止につながる
相続発生時は親族間で感情的な対立が起こりやすく、遺産分割をめぐる紛争は年々増加傾向にあります。トラブルのもとになりそうな財産を生前贈与で分配しておけば、相続時に揉めるリスクを軽減できるでしょう。
また、存命中に財産について家族で話し合うきっかけにもなります。互いの理解が深まることで、円満な相続の実現につながる効果も期待できます。
財産の値上がりリスクを回避できる
不動産や株式など、将来値上がりが見込まれる財産を早めに贈与しておけば、贈与時点の評価額で課税されるため、値上がり分に対する税負担を回避できます。
特に収益を生む賃貸不動産の場合、贈与後に発生する家賃収入は受贈者のものとなるため、贈与者の相続財産がさらに膨らむのを防ぐ二重の効果が見込めます。
認知症対策としても有効
贈与者が認知症などで判断能力を失うと、財産の管理や処分が困難になります。元気なうちに生前贈与を進めておけば、認知症発症後に財産が凍結されるリスクへの備えとなるでしょう。
生前贈与を行ううえでの注意点
メリットの多い生前贈与ですが、知らないまま進めると思わぬ落とし穴にはまる恐れがあります。実施前に押さえておくべき注意点を確認しましょう。
相続よりも税金が高くなる場合がある
贈与税の税率は相続税よりも高く設定されているため、一度に多額の財産を贈与するとかえって税負担が増す場合があります。
たとえば、1億円の財産を子2人に一括で贈与した場合の贈与税は約3,900万円にのぼりますが、相続で引き継いだ場合の相続税は約1,700万円です。生前贈与は「少額を長期間にわたって移転する」ことで節税効果を発揮するため、贈与額と回数の設計が重要になります。
定期贈与とみなされると課税される
毎年同じ時期に同じ金額を贈与し続けると、税務署から「定期贈与」(あらかじめ決められた総額を分割で贈与しているもの)と判断される可能性があります。定期贈与と認定されると、贈与総額に対して一括で贈与税が課されてしまいます。
たとえば、1,000万円を贈与する取り決めが先にあり、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与した場合などが該当します。贈与の時期や金額を毎年変える、贈与契約書をその都度作成するといった対策が有効です。
亡くなる7年以内の贈与は相続財産に加算される
2024年1月1日以降の贈与から、暦年課税による相続人への贈与は相続開始前7年以内のものが相続財産に加算されるルールが適用されています(従来は3年以内)。
たとえば、父が息子に毎年100万円ずつ贈与し7年後に亡くなった場合、700万円すべてが相続財産に含まれます。延長された4年間(3年超7年以内)の贈与については合計100万円までは加算対象外となる緩和措置がありますが、加算期間が長くなった分、できるだけ早く贈与を始めることが重要です。
名義預金とみなされるリスクがある
贈与したつもりの預金でも、受贈者が通帳や印鑑を管理しておらず、実質的に贈与者が支配している場合は「名義預金」と判断され、相続財産に含まれてしまいます。
名義預金の認定を避けるためには、受贈者自身が口座を開設・管理し、贈与された資金を自由に使える状態にしておくことが不可欠です。贈与契約書の作成と銀行振込による記録も欠かせません。
遺留分侵害額請求を受ける可能性がある
特定の相続人に偏った生前贈与を行うと、他の相続人から「遺留分侵害額請求」を受けるリスクがあります。遺留分とは、配偶者や子などに最低限保障された相続分のことです。相続開始前10年以内の特別受益に該当する贈与は遺留分の算定基礎に含まれるため、全体のバランスを考慮した贈与計画が求められます。
税金がかからない生前贈与の8つの方法
生前贈与で節税効果を最大化するには、税金がかからない方法を正しく選択することが鍵となります。ここでは代表的な8つの方法を紹介します。
● 生活費・教育費として都度贈与する
● 教育資金を一括贈与する
● 結婚・子育て資金を一括贈与する
● 住宅取得等資金として贈与する
● 障がい者への贈与
● 暦年贈与の非課税枠を活用する
● 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)を利用する
● 相続時精算課税制度を利用する
生活費・教育費として都度贈与する
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から、生活費や教育費に充てるための援助は贈与税がかかりません。生活費には日常生活に必要な費用のほか、治療費や養育費も含まれ、教育費には学費・教材費・文具費などが該当します。
ただし、生活費や教育費の名目で贈与した資金を預金したり、株式・不動産の購入に充てたりした場合は贈与税の対象となるため注意が必要です。
教育資金を一括贈与する
直系尊属(父母・祖父母)から30歳未満の子や孫に対し、教育資金として一括贈与する場合、受贈者一人あたり最大1,500万円まで非課税となります。金融機関に教育資金専用口座を開設し、教育費の領収書を提出する手続きが必要です。
対象となるのは、入学金・授業料・保育料・学用品購入費・修学旅行費・通学定期券代・留学費用など教育に関わるすべての費用で、学習塾や習い事の費用も500万円を上限に含まれます。受贈者が30歳に達した時点で残額がある場合は贈与税の課税対象となります。適用期間は令和8年3月31日までです。
結婚・子育て資金を一括贈与する
直系尊属から18歳以上50歳未満の子や孫に対し、結婚・子育て費用として一括贈与する場合、受贈者一人あたり最大1,000万円(うち結婚関係は300万円まで)が非課税となります。
挙式費用・新居の家賃・妊娠出産費用・保育料などが対象です。金融機関が資金の使途を領収書でチェックし、書類を保管する仕組みになっています。受贈者が50歳に達した時点で使い残しがあれば贈与税の対象となり、受贈者の前年所得が1,000万円以上の場合は適用できません。
住宅取得等資金として贈与する
直系尊属から18歳以上の子や孫へ、住宅の新築・取得・増改築のための資金を贈与する場合、一定の要件を満たせば非課税枠が適用されます。非課税限度額は、省エネ・耐震・バリアフリー住宅で1,000万円、それ以外の住宅で500万円です。
暦年課税の基礎控除110万円と併用できるため、最大1,110万円まで非課税での贈与が可能です。適用期間は令和8年12月31日までとなっています。
障がい者への贈与
特定障がい者の生活費のための信託財産については、最大6,000万円まで贈与税が非課税となります。特別障がい者以外の特定障がい者の場合は、非課税枠が3,000万円までです。この制度を利用することで、障がいのある家族の将来の生活を安定的に支えられます。
暦年贈与の非課税枠を活用する
暦年贈与で年間110万円以内の贈与であれば、贈与税は非課税で申告も不要です。受贈者の人数を増やすほど非課税で移転できる金額が大きくなるため、子だけでなく孫や子の配偶者など複数の相手への贈与を検討するのも有効な戦略です。
ただし、相続開始前7年以内の暦年贈与は相続財産に加算されるため、できるだけ早い時期から始めることが肝心です。また、定期贈与と認定されないよう、金額や時期を毎年変えるなどの工夫も忘れないようにしましょう。
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)を利用する
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産の取得資金を贈与した場合、基礎控除110万円に加えて最大2,000万円の控除が受けられます。つまり、最大2,110万円まで贈与税がかかりません。
適用の条件は、婚姻期間20年以上の夫婦間の贈与であること、対象が居住用不動産もしくはその取得資金であること、贈与を受けた翌年の3月15日までにその不動産に居住していることです。同じ配偶者からは一生に一度しか適用を受けられず、贈与税の申告と所定の書類添付が必要となります。
相続時精算課税制度を利用する
60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、届出書を提出することで累計2,500万円まで贈与税が非課税となります。2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税が課されます。
2024年以降は年間110万円の基礎控除も新設され、この基礎控除内の贈与は相続時に加算する必要がありません。一度選択すると暦年課税に戻せないため、贈与者の年齢や健康状態、相続財産の規模などを総合的に判断したうえで選択する必要があるでしょう。
特に不動産や有価証券など将来値上がりが予測される財産、あるいは賃貸物件からの収益を早めに次世代へ移したい場合に、節税効果が期待できます。
2024年以降の税制改正が生前贈与に与える影響
2024年1月1日以降の贈与から適用されている税制改正は、生前贈与の戦略に大きな影響を及ぼしています。
改正のポイントは主に2つあります。1つ目は、暦年課税における生前贈与加算の期間が「相続開始前3年以内」から「7年以内」へ段階的に延長されたこと。2つ目は、相続時精算課税に年間110万円の基礎控除が新設され、この基礎控除内の贈与は相続財産へ加算されないことです。
暦年課税の節税効果は相対的に薄まった一方で、相続時精算課税の使い勝手が向上しました。今後は両制度のメリットを比較しながら、個々の状況に応じた最適な方式を選択する重要性がさらに高まっています。
生前贈与を正しく行うための手続き
生前贈与の効果を確実に得るためには、法的に有効な手続きを踏むことが欠かせません。具体的には、以下の流れで進めます。
1. 贈与契約書を毎回作成する
2.銀行振込で贈与の記録を残す
3.贈与税の申告期限を守る
それぞれ詳しく解説します。
1. 贈与契約書を毎回作成する
生前贈与は贈与者と受贈者の合意で成立しますが、税務調査や後日のトラブルに備えて「贈与契約書」を毎回作成しておくことが強く推奨されます。契約書には贈与者名・受贈者名・贈与日・財産の内容・金額を明記し、双方が署名捺印のうえ保管しましょう。
2.銀行振込で贈与の記録を残す
現金の贈与は銀行振込で行い、客観的に証明できる記録を残しておくことが大切です。手渡しでは証拠が残りにくく、贈与の事実自体を否認される恐れがあります。
3.贈与税の申告期限を守る
年間110万円を超える贈与を受けた場合は、翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告と納付が必要です。相続時精算課税を選択する場合も、最初の贈与を受けた年に届出書を提出しなければなりません。申告を怠ると無申告加算税や延滞税が課される可能性があるため、期限管理には十分注意してください。
まとめ
生前贈与は、将来の相続税負担を軽減しながら、贈与者の意思で大切な人に財産を渡せる有効な手段です。暦年課税の基礎控除110万円を活用した長期的な贈与のほか、教育資金・住宅取得資金・結婚子育て資金の非課税特例、配偶者控除、相続時精算課税など、複数の制度を組み合わせることで大きな節税効果が期待できます。
一方で、名義預金や定期贈与の否認リスク、生前贈与加算の期間延長、遺留分侵害の問題など注意すべき点も少なくありません。2024年からの税制改正によって暦年課税と相続時精算課税の有利・不利の判断も変わってきています。
生前贈与は早く始めるほど効果が大きくなる対策です。まずは自身の財産状況や家族構成を整理し、税理士など相続の専門家に相談しながら計画的に進めていくことをおすすめします。策が可能です。大切な家族の負担を減らしたいとお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。
