障害者控除とは?対象者や控除額、申請方法を徹底解説
障害者控除は、障害のある方やそのご家族の税負担を軽減するための制度です。所得税や住民税、さらには相続税においても適用される重要な制度ですが、「どのような人が対象になるのか」「実際にどれくらい税金が安くなるのか」といった疑問をお持ちの方も多いでしょう。
本記事では、障害者控除の基本的な仕組みから具体的な控除額、申請の手続き方法まで、わかりやすく解説します。障害者手帳をお持ちでない方でも対象となるケースがあるため、ぜひ最後までご確認ください。
なお、本記事では統一して「障害者」と表記するものとします。
障害者控除とは?制度の基本を理解する
障害者控除は、納税者本人や配偶者、扶養親族に障害がある場合に受けられる所得控除のひとつです。この控除を適用することで、課税対象となる所得金額を減らせるため、結果として所得税や住民税の負担が軽減されます。
そもそも控除とはどういう意味か
控除とは、税金を計算する際に一定の金額を差し引くことを指します。収入から必要経費や各種控除を差し引いた金額が「課税所得」となり、この課税所得に対して税率をかけることで納めるべき税額が決まります。
たとえば、年収500万円の方がいたとします。給与所得控除や基礎控除などの各種控除を差し引いた結果、課税所得が300万円になったとしましょう。この300万円に所定の税率をかけて税額が算出されます。障害者控除を適用できれば、この課税所得がさらに減少するため、最終的な納税額も少なくなります。
所得控除の中での位置づけ
所得控除には15種類あり、障害者控除はそのひとつです。ほかには基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除などがあります。
障害者控除の特徴は、所得金額に関係なく一定額を控除できる点です。医療費控除のように実際に支払った金額に応じて控除額が変動する制度とは異なり、要件を満たせば定額で控除を受けられます。
障害者控除が適用される税金の種類
障害者控除が適用されるのは、主に以下の税金です。
・所得税
・住民税
・相続税
相続人に障害がある場合、それぞれの税金が所定の計算式で算出された障害者控除が適用されます。相続税の障害者控除は所得税とは別の制度として設けられており、控除額の計算方法も異なるため注意が必要です。難しい場合は専門家に相談することをおすすめします。
障害者控除の対象者は誰か
障害者控除を受けられるのは、納税者本人、同一生計配偶者、扶養親族のいずれかが障害者に該当する場合です。ここでは、どのような方が対象になるのか詳しく見ていきます。
障害者控除の対象となる障害者の範囲
障害者控除における「障害者」とは、国税庁の定義によると以下のいずれかに該当する方を指します。
・身体障害者手帳の交付を受けている方
・精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
・療育手帳の交付を受けている方
・戦傷病者手帳の交付を受けている方
・原子爆弾被爆者で厚生労働大臣の認定を受けている方
・精神または身体に障害のある65歳以上の方で、市町村長等の認定を受けている方
・常に就床を要し、複雑な介護を要する方
また、これらとは別に「特別障害者」に区分される人もいます。特別障害者に該当するのは以下のような方です。
・身体障害者手帳に身体上の障害の程度が1級または2級と記載されている方
・精神障害者保健福祉手帳に障害等級が1級と記載されている方
・療育手帳において重度の知的障害者(A判定)とされている方
・精神または身体に重度の障害があるため常に就床を要し、複雑な介護を必要とする方
・精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある方
障害者の区分についてわからない場合は、かかりつけ医か市区町村役場に相談してみてください。
同居特別障害者の場合はさらに控除額が増える
特別障害者である配偶者や扶養親族と同居している場合、「同居特別障害者」として、通常の特別障害者よりもさらに高額な控除を受けられます。
同居の判定は、納税者またはその配偶者、生計を一にするほかの親族のいずれかと常に同居していることが要件です。病院への入院や施設への入所などで一時的に離れている場合でも、基本的には同居しているものとして扱われます。
障害者手帳がなくても対象になるケース
障害者手帳を持っていなくても、障害者控除を受けられる場合があります。特に高齢者の場合、要介護認定を受けていれば、市町村から「障害者控除対象者認定書」の交付を受けられる可能性があります。
市町村等による障害者認定制度
 65歳以上で要介護認定を受けている方のうち、障害の程度が障害者に準ずると認められる場合、市町村長や福祉事務所長から認定書が交付されます。認定基準は自治体によって異なりますが、一般的には認知症の程度や身体機能、日常生活自立度などを総合的に判断して決定されるものです。
たとえば、要介護3以上で認知症自立度がⅡb以上の場合は障害者に、要介護4または5で認知症自立度がⅢ以上の場合は特別障害者に認定される自治体もあります。ただし、これはあくまで目安であり、実際の認定は個別の状況を踏まえて判断されるため注意してください。
障害者手帳を申請中の場合
 障害者手帳の交付申請中であっても、医師の診断書などにより障害者に該当することが明らかな場合は、控除の適用を受けられます。後日、手帳の交付を受けた際には、その手帳の写しを提出する必要があります。
障害者控除で控除される金額はいくらか
障害者控除の金額は、障害の程度や同居の有無によって異なります。所得税と住民税でも控除額が違うため、それぞれ確認していきましょう。
所得税における障害者控除額
所得税の障害者控除額は以下のとおりです。
・一般の障害者の場合: 27万円
※身体障害者手帳3級~6級、精神障害者保健福祉手帳2級または3級、療育手帳B判定など
・特別障害者の場合: 40万円
※身体障害者手帳1級~2級、精神障害者保健福祉手帳1級、療育手帳A判定など
・同居特別障害者の場合: 75万円
※特別障害者である配偶者や扶養親族と同居している場合
住民税における障害者控除額
住民税の障害者控除額は、所得税よりも若干低く設定されています。
・一般の障害者の場合: 26万円
・特別障害者の場合: 30万円
・同居特別障害者の場合: 53万円
住民税は所得税とは別に計算されるため、障害者控除を適用することで両方の税金を軽減できます。
控除額の計算方法と具体例
障害者控除によって実際にどれくらい税金が安くなるのか、具体例を見てみましょう。
ステップ1: 課税所得金額を計算する
 まず、年収から給与所得控除や各種所得控除を差し引いて、課税所得金額を算出します。
ステップ2: 税率を確認する
 課税所得金額に応じた税率を確認します。所得税の税率は累進課税となっており、課税所得が195万円以下なら5%、195万円超から330万円以下なら10%、330万円超から695万円以下なら20%というように段階的に上がっていきます。
ステップ3: 控除額に税率をかけて計算する
 障害者控除額に税率をかけた金額が、実際に軽減される税額です。
計算例1: 一般障害者で課税所得が300万円の場合
障害者控除額: 27万円(所得税)
適用される税率: 10%
軽減される所得税額: 27万円 × 10% = 2万7,000円
住民税の軽減額: 26万円 × 10%(住民税の所得割税率) = 2万6,000円
合計軽減額: 5万3,000円
計算例2: 同居特別障害者で課税所得が500万円の場合
障害者控除額: 75万円(所得税)
適用される税率: 20%
軽減される所得税額: 75万円 × 20% = 15万円
住民税の軽減額: 53万円 × 10% = 5万3,000円
合計軽減額: 20万3,000円
このように、課税所得が高いほど、また障害の程度が重いほど、軽減される税額も大きくなります。
障害者控除の申請方法
障害者控除を受けるには、年末調整または確定申告で申請する必要があります。それぞれの手続き方法を確認しましょう。
会社員の場合は年末調整で申請する
給与所得者(会社員やパート、アルバイトなど)の方は、年末調整で障害者控除を申請できます。勤務先から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に必要事項を記入しましょう。この申告書には障害者控除に関する記載欄があり、以下の情報を記入します。
・障害者に該当する方の氏名
・続柄
・障害の区分(一般の障害者、特別障害者、同居特別障害者)
・障害者手帳の種類と交付年月日
初めて障害者控除を申請する場合や、障害の程度に変更があった場合は、障害者手帳のコピーを勤務先に提出する必要があります。ただし、すでに提出済みで変更がない場合は、改めて提出する必要はありません。
障害者手帳がなく、市町村から交付された「障害者控除対象者認定書」を使用する場合も、認定書のコピーを勤務先に提出してください。これらの書類を提出しなければ、障害者控除を受けることができない点に注意しましょう。
個人事業主や年末調整で申請できなかった場合は確定申告で
個人事業主の方や、年末調整で障害者控除の申請をし忘れた方は、確定申告で申請しましょう。確定申告書の「所得から差し引かれる金額」の欄に、障害者控除に関する記載欄があります。該当する項目にチェックを入れ、控除額を記入してください。
・一般の障害者の場合: 「障害者」欄に人数と控除額(27万円×人数)を記入
・特別障害者の場合: 「特別障害者」欄に人数と控除額(40万円×人数)を記入
・同居特別障害者の場合: 「同居特別障害者」欄に人数と控除額(75万円×人数)を記入
確定申告の際には、障害者手帳のコピーまたは市町村の認定書のコピーを添付するか、提示する必要があります。e-Taxで電子申告する場合は、手帳の記載内容を入力すれば書類の提出を省略可能です。
障害者控除の適用を忘れた場合の対処法
障害者控除の申請を忘れてしまった場合でも、過去にさかのぼって控除を受けられます。
年末調整で障害者控除を申告し忘れた場合は、翌年の確定申告期間(通常2月16日~3月15日まで)に確定申告を行うことで控除を受けられます。会社で年末調整をやり直してもらう方法もありますが、確定申告のほうが確実です。
確定申告の期限前に気づいた場合は、改めて正しい内容で確定申告書を提出する必要があります。最後に提出したものが有効となるため、訂正した申告書を再提出すれば問題ありません。
確定申告の期限後に気づいた場合は、「更正の請求」という手続きを行います。更正の請求は、申告期限から5年以内であれば可能です。更正の請求書を税務署に提出すると、税務署が内容を審査し、認められれば還付金が戻ってきます。
市町村による障害者控除対象者認定制度
障害者手帳を持っていない高齢者の方でも、障害者控除を受けられる可能性があります。ここでは、市町村による認定制度について詳しく説明します。
障害者控除対象者認定書とは
障害者控除対象者認定書は、65歳以上の方で障害者手帳の交付を受けていない方のうち、障害者に準ずる状態にあると市町村長が認めた場合に交付される書類です。
この認定書があれば、障害者手帳がなくても所得税や住民税の障害者控除を受けられます。ただし、認定書はあくまでも税制上の控除を受けるためのものであり、障害者手帳とは異なります。障害者手帳で受けられる福祉サービスや各種割引などは、認定書では利用できない点に注意してください。
認定の基準
認定基準は市町村によって異なりますが、一般的には要介護認定における認定調査結果や主治医意見書の内容をもとに判断されます。
障害者の認定基準の例
・認知症自立度がⅡa以上
・障害高齢者の日常生活自立度がA2以上
・要介護2以上で一定の身体機能の低下が認められる
特別障害者の認定基準の例
・認知症自立度がⅢa以上
・障害高齢者の日常生活自立度がB2以上
・要介護4または5で寝たきりの状態
これらはあくまで目安であり、実際の認定は個別の状況を総合的に判断して行われます。
申請方法
認定書の交付を希望する場合は、お住まいの市区町村の高齢福祉担当窓口に以下の書類を提出してください。
・障害者控除対象者認定申請書(市区町村の窓口または公式Webサイトで入手)
・本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
・介護保険被保険者証のコピー
申請から認定書の交付までは、通常2週間から1か月程度かかります。認定書は、申請した年度だけでなく、障害の状態が継続している限り翌年度以降も使用できます。
障害者控除対象者認定書の注意点
認定書は障害者控除を受けるための要件のひとつに過ぎません。実際に控除を受けるには、納税者本人または扶養親族として所得税法上の要件を満たす必要があります。認定書を取得しただけでは控除は適用されません。年末調整または確定申告で障害者控除の申請を行う必要があります。
なお、認定書は、要介護認定を受けた時期までさかのぼって適用されます。過去5年以内であれば、更正の請求により還付を受けられる可能性があるため覚えておきましょう。
障害者控除に関するよくある質問
障害者控除についてよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
障害者手帳の申請中でも控除は受けられるか
障害者手帳の交付申請中であっても、医師の診断書などにより明らかに障害者に該当することが確認できる場合は、障害者控除を受けられます。ただし、手帳の交付を受けた後に、その写しを税務署または勤務先に提出する必要があります。
扶養していない親族でも対象になるか
障害者控除の対象となるのは、納税者本人、同一生計配偶者、扶養親族です。扶養していない親族は対象になりません。
同一生計配偶者とは、納税者と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が48万円以下の方を指します。扶養親族とは、納税者と生計を一にする親族で、合計所得金額が48万円以下の方です。
年の途中で障害者手帳を取得した場合
年の途中で障害者手帳を取得した場合でも、その年の12月31日時点で障害者に該当していれば、その年の所得について1年分の障害者控除を受けられます。月割計算にはなりません。
複数の障害者がいる場合
扶養親族に複数の障害者がいる場合は、それぞれについて障害者控除を受けられます。たとえば、特別障害者である配偶者と一般の障害者である子どもを扶養している場合、合計で67万円(40万円 + 27万円)の控除を受けられます。
障害者控除と医療費控除は併用できるか
障害者控除と医療費控除は別の制度であり、要件を満たせば併用できます。障害に関連する医療費を多く支払った場合は、両方の控除を適用することで税負担をさらに軽減できます。
まとめ
障害者控除は、障害のある方やそのご家族の税負担を軽減する重要な制度です。所得税で最大75万円、住民税で最大53万円の控除を受けられるため、適用できる方は必ず申請しましょう。
障害者手帳をお持ちでない65歳以上の要介護認定者の方も、市町村から認定書の交付を受けることで控除を受けられる可能性があります。過去5年分までさかのぼって還付を受けられるため、該当する可能性がある方は、お住まいの市区町村の窓口に相談してみてください。
障害者控除の制度を正しく理解し、適切に活用することで、税負担を軽減し、より安心した生活を送ることができます。不明な点がある場合は、税務署や税理士、市区町村の窓口に相談することをおすすめします。
