公正証書遺言とは?ほかの遺言書との違いや作成の手順を徹底解説
遺言書にはさまざまな種類がありますが、なかでも「公正証書遺言」は法的効力が強く、遺言書の紛失や偽造のリスクがない方法です。遺言書の作成を考えてはいるものの、どのように遺言書を作成すれば良いのかわからず、作成を進められない方もいらっしゃるでしょう。
本記事では公正証書遺言について、作成手順から費用・効力まで、わかりやすく解説します。将来の相続に向けて遺言書の作成を検討されている方、大切な家族に円満に財産を引き継ぎたいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
公正証書遺言は公証役場で作成する遺言
公正証書遺言は、法務大臣が任命した公証人の立ち会いのもと、公証役場で作成する遺言書です。全国約300か所ある法務省管轄の公証役場で作成できます。
公証人とは、裁判官や検察官などの法律実務を長年経験した法律の専門家です。公証人が内容を作成し、遺言者が内容を確認して署名・押印をする流れで遺言書を作成します。
公正証書遺言の作成時には、2人以上の証人の立ち会いが必要です。遺言者が第三者からの強要や圧力を受けることなく、自らの意思で遺言を作成していることを証明するために、証人の立ち会いが必要とされています。
20歳以上の成年であり、遺言者の推定相続人や受遺者でないこと、精神的な障害がなく証人としての能力があり、遺言者の配偶者や親族でないことも証人の条件です。
一般的には友人や知人に依頼する場合が多いですが、適任者が見つからない場合は、公証役場や法律の専門家に相談すれば紹介も受けられます。
公正証書遺言の作成に必要な書類
公正証書遺言の作成には、さまざまな書類が必要です。これらの書類は、主に本人確認、財産確認、関係者確認のために使用されます。必要な書類は、次のとおりです。
書類の種類 | 具体的な内容と注意点 |
続柄の確認書類 | ・戸籍謄本 ※相続人が遺言者の戸籍謄本だけでは続柄が不明な場合(甥、姪など)、続柄が確認できる戸籍謄本も必要 |
受遺者の確認書類 | ・一般個人の場合:住民票、手紙、ハガキなど住所が確認できる書類 ・法人の場合:登記簿謄本(登記事項証明書)または代表者の資格証明書 ・公益団体の場合:不要 ※入手困難な場合は公証人に相談 |
不動産関係の書類 | ・固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書 ・不動産登記簿謄本(登記事項証明書) ※証書中で個々の不動産を特定しない場合は不要 |
金融資産関係の書類 | 預貯金通帳またはそのコピー ※口座特定しない場合は不要 |
証人関係の書類 | ・証人2名の住所、氏名、生年月日が確認できる資料(運転免許証のコピーなど) |
遺言執行者の関係書類 | ・相続人または受遺者が遺言執行者の場合:追加書類不要 ・上記以外が遺言執行者の場合:住民票や運転免許証のコピーなど(住所、氏名、生年月日が確認できる資料) |
(参考:広島公証人合同役場「必要書類について」)
公証役場によって必要書類が異なる場合があるため、事前に依頼予定の公証役場へ確認しましょう。
公正証書遺言の作成は、お住まいの地域に関わらず、全国どの公証役場でも可能です。ただし、入院や体調不良などの理由で公証役場への来訪が困難な場合、公証人による出張対応を依頼することになります。その際は、居住地のある都道府県内の公証役場のみが対応可能となりますので、ご注意ください。
公正証書遺言を作成する一般的な手順
公正証書遺言の作成は、直接公証役場に依頼する方法と、専門家に依頼する方法があります。一般的な作成手順は、次のとおりです。
- 1. 遺言内容のメモ書きを作る
- 2. 相談日時を予約する
- 3. 公証人と内容を相談する
- 4. 証人を依頼する
- 5. 遺言書作成日を予約する
- 6. 遺言書の内容を確認する
- 7. 正本と謄本を保管する
ただし、公証役場に依頼する方法・専門家に依頼する方法ともに、作成の手順が法律などで定まっているわけではありません。そのことから、依頼先の方法に従って作成することとなります。
本記事では一般的な作成手順として、それぞれの流れを解説します。
1.遺言内容のメモ書きを作る
最初のステップとして、遺言に記載したい内容を整理しましょう。相続人全員の氏名と続柄、相続財産の詳細として不動産や預貯金、有価証券などの情報を書き出します。
さらに、誰にどの財産を相続させたいか、お墓の管理者指定などの特別な希望事項があれば、それらも含めて整理します。相続財産については、できるだけ正確な情報を集めることが重要です。
2.相談日時を予約する
遺言内容が整理できたら、希望する公証役場に電話で相談予約を入れます。遺言書作成の相談であると伝え、希望する日時を複数用意しておくと良いでしょう。
外出が困難な場合は、出張対応の可否も確認できます。公証役場での相談は無料で、この段階では証人の同席は必要ありません。
3.公証人と内容を相談する
公証人との相談では、準備したメモを基に具体的な遺言の内容を決定していきます。「遺言の内容が法的に有効か」「表現や記載方法が適切か」などについて、法律の専門家である公証人からアドバイスをもらえると同時に、必要書類の確認と入手方法、概算費用についても説明を受けられます。
ただし、公証役場では個々の事情に応じた遺産分割の方法や税務相談には応じていません。これらについて専門的なアドバイスが必要な場合は、別途、弁護士や税理士などの専門家へ相談しましょう。
4.証人を依頼する
相談の内容が固まってきた段階で、証人を手配します。証人は2名で、成人である、相続人や受遺者でない、遺言者の配偶者や親族でないなどの条件を満たす必要があります。
また、遺言作成日に立ち会えることも重要な条件です。身近な知人に適任者がいない場合は、公証役場に紹介の依頼も可能です。その場合、1人あたり1万円程度の謝礼が必要となります。
5.遺言書作成日を予約する
遺言書の内容確認が終わり証人も見つかったら、遺言者・証人・公証人のスケジュール調整を行い、遺言書を作成する日を予約します。
作成日が決定した際には、必要書類や書類の郵送・持参といった提出方法について確認しましょう。また、当日の所要時間や手数料の金額、支払方法についても事前に確認しておくとスムーズです。
6. 遺言書の内容を確認する
作成当日は、実印(または認印と身分証明書)、手数料、その他公証人から指示された書類を持参(または事前郵送)します。当日は公証人による遺言書の読み上げがあり、遺言者が内容を確認します。
修正が必要な場合はその場で行い、最終的に遺言者・証人・公証人による署名・押印を行います。この過程で、原本・正本・謄本の3種類の遺言書が作成されます。
7.正本と謄本を保管する
公正証書遺言の作成が完了すると、原本・正本・謄本の3種類の文書が作成されます。原本は、遺言者・証人・公証人が署名・押印を行った唯一の文書として、公証役場で厳重に保管されます。
遺言者には、正本と謄本が交付されます。正本は原本の写しですが、原本と同等の法的効力を持ち、将来の相続手続きで使用します。紛失しても再発行は可能ですが、火災や水害から守れる場所で、かつ相続人が必要なときにすぐに見つけられる場所を選び、大切に保管しましょう。金庫や鍵付きの引き出しなどは、保管場所に適しています。
ただし、内容を関係者以外に見られないよう注意が必要です。正本の保管場所は、信頼できる家族に伝えておきましょう。
謄本も原本の写しですが法的効力はないため、手続きでは使用できません。遺言書の存在や内容を確認する資料として活用できます。
公正証書遺言の作成は専門家に依頼することも可能
公正証書遺言の作成は、弁護士や行政書士などの専門家に依頼できます。専門家に依頼する場合、法律的な観点からの適切なアドバイスを受けられることに加え、相続税を考慮した財産分割プランの提案を受けられるメリットがあります。また、必要書類の収集・準備のサポートを受けられる点も、大きなメリットです。
依頼した専門家に証人を依頼できるため、自分で探す必要がある証人は1名で済みます。公証役場との調整や手続きの代行も専門家が行ってくれるため、遺言者ご自身による手続きの負担が大幅に軽減される点も特徴です。
専門家に依頼する場合は別途報酬が必要となりますが、複雑な相続案件をスムーズに進められる点や将来の相続トラブルを防げるといった点を考慮すると、専門家の知見を活用する価値は十分にあるといえるでしょう。
公正証書遺言は費用がかかるが信用性が高い
自筆証書遺言などをはじめとするほかの遺言形式と比べて、公正証書遺言は費用が発生します。しかしその分、高い信用性と法的安定性を得られます。
まず、法律の専門家である公証人が作成し、証人2名の立ち会いによる厳格な本人確認が行われるため、信用性・法的な安定性が非常に高くなります。また、原本が公証役場で保管される点も、高い信用性・法的な安定性につながるポイントです。
実務面では、家庭裁判所での検認手続きが不要である点が、公正証書遺言の大きな特徴です。公証役場で保管されるため紛失や改ざんの心配がなく、遺言書が無効となるリスクも極めて低いため、相続開始後すぐに執行可能となります。
信用性や法的安定性の向上を考慮すると、公正証書遺言は費用がかかるだけのメリットを得られるといえるでしょう。
遺言者が亡くなっても相続人に通知は来ないので注意
公正証書遺言に関する重要な注意点として、遺言者の死亡時に公証役場から相続人への自動的な通知がないことを理解しておく必要があります。
公証役場の役割は作成と保管までであり、遺言者の死亡を公証役場が把握する仕組みはありません。そのため、相続人への通知義務も公証役場にはありません。
ただし、遺言執行者が指定されている場合は状況が異なります。遺言執行者には相続人への通知義務があり(参考:法務省「民法1007条2項」)、遺言執行者が死亡事実を知った時点で通知する必要があります。
このような状況を踏まえると、信頼できる遺言執行者を指定しておくことが望ましいといえます。また、遺言の存在を家族に伝えておくことや、正本の保管場所を関係者に知らせておくことも有効な対策です。
公正証書遺言の作成で不安なことはひろしま相続・不動産ホットラインに相談を
遺言の作成は、相続時のトラブルを未然に防ぎ、ご家族が争うことなく財産を引き継ぐための重要な準備です。中でも公正証書遺言は、法的効力が強く、遺言書の紛失や偽造のリスクもない安全な方法だといえます。
ただし、公正証書遺言の作成にあたって、遺言内容を決めるための相談や、相続税を考慮した財産分割への助言などは行ってもらえません。また、必要書類の準備などはご自身で行う必要があります。
相続人にとって想定外の税負担が発生してしまう、不公平な分配になってしまっており相続人同士のトラブルを引き起こしてしまうといった遺言にならないために、専門家への相談がおすすめです。
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