相続対策はどうしたらいい?節税と争族にならないための方法
自分が亡くなったあと、家族が相続でもめる状況は避けたいところ。「わが家には財産などほとんどないから大丈夫」と軽く考えていたら大間違いです。
令和2年の司法統計のうち「家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件のうち認容・調停成立件数」を調べてみると、遺産額が1000万円以下の事件件数の割合が34.7%も占めています。約8割は遺産額5000万円以下となっており、遺された財産が少なくても相続争いは起こります。
この記事では、大切な家族が相続をめぐって争わないよう、相続税の節税方法と争いに発展しないための対策について解説します。
相続対策とは「相続税対策」と「争族対策」
相続対策のためには、ふたつの対策をする必要があります。それが「相続税対策」と「争族対策」です。
「相続税対策」は、相続が発生したときに生じる相続税をいかに少なくするための対策を指します。一方「争族」とは、相続をめぐって家族や親族内で争いが起きることから、「そうぞく」という音に「争」の字を当てはめた造語です。少額でもトラブルが起こりがちな相続が、争族に発展しないためのものが「争族対策」です。
相続税対策とは
相続税対策とは、遺産相続によって発生する相続税を少なくするための節税対策を指します。相続税は、遺産総額から基礎控除額を差し引いたうえで残ったものにかかります。
基礎控除額の計算方法は次のとおりです。
3000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、妻と子ども2人が相続する場合は、3000万円+600万円×3=4800万円が基礎控除額となります。もし遺産総額が4800万円以下であれば相続税はゼロですが、反対に4800万円以上の遺産があれば、4800万円を超えた部分に相続税が課されます。
相続税対策のためは、いかに遺産相続額を基礎控除額内に納めるかが重要です。対策としては、次のようなものがあります。
- ●生前に相続財産を減らしておく
- ●相続税を支払うための納税資金を準備しておく
くわしい内容については後述します。
争族対策とは
争族対策とは、遺産相続時に家族や親族間で争いが起きないための対策を指します。
不動産など分割が難しい財産がある場合は、争族に発展しやすいようです。
遺産分割をめぐるトラブル件数は年々増えており、泥沼の争いに発展する可能性も。最悪の場合は絶縁などに至るケースもあります。「我が家は仲良しだから大丈夫」と考えるのではなく、家族が仲違いしないよう対策を講じておきましょう。
争族に発展しやすいケース例として、次のようなものがあります。
- ● 不動産以外の財産が少ない
- ● 特定の相続人だけが生前に多くの資金援助を受けていた
- ● 特定の相続人とだけ親しく残りの相続人とは疎遠だった
- ● 被相続人が離婚・再婚している
- ● 遺言書がない
- ● 寄与分を主張している
寄与分とは、被相続人の財産維持や増加に寄与した相続人がいる場合、寄与行為に応じた金額を相続財産に加算する制度です。例としては介護などが該当します。
一番の争族対策は遺言書を作成することですが、そのほかの対策についても詳しく後述します。
生前にできる相続税対策
生前にできる相続税対策には次の3つがあります。
- ●財産を減らす、評価額を下げる
- ●軽減制度を利用して節税する
- ●納税資金を準備する
この対策のためには次のような方法があります。
- ●相続税精算課税制度を利用する
- ●暦年贈与をする
- ●生命保険を契約する
- ●不動産を活用する
- ●特例を利用する
- ●親子で同居する
詳しく見ていきましょう。
相続税精算課税制度を利用する
遺産総額を減らすために一番メジャーな方法として生前贈与が挙げられます。生前贈与は、大きく分けると「相続時精算課税制度」と「暦年贈与」の2つがあります。
「相続時精算課税制度」は、原則60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子どもや孫へ贈与できる制度です。贈与を受けた時点では一定額までは贈与税がかかりません。今までは、相続発生時に贈与された額が加算され再計算されるので、贈与税の負担軽減にはあまり寄与しない制度でした。
しかし制度改正により、2024年1月から特別控除の2,500万円とは別に、年110万円までの基礎控除が認められるようになりました。年110万円までの贈与であれば贈与税がかからず、相続時の足し戻しも必要ありません。
「相続時精算課税制度」の利用には、初めて贈与を受けた翌年3月15日までに、届出書と申告書を税務署に提出する必要があります。総額2,500万円までは贈与税がかからず、2,500万円を超えた部分に一律20%の贈与税がかかります。
暦年贈与をする
遺産総額を減らすために一番メジャーな方法として生前贈与が挙げられます。生前贈与は、大きく分けると「相続時精算課税制度」と「暦年贈与」の2つがあります。
暦年贈与に関するルールも、令和5年の改正で生前贈与加算期間が変更となりました。令和6年1月以降、相続発生3年以内から7年以内に延長され、被相続人が亡くなった当日から7年以内の贈与であれば相続財産に足し戻して相続税が計算されるようになっています。
一方、「暦年贈与」は1月1日~12月31日の1年間で1人につき110万円までの贈与は非課税になる制度です。1年ごとに課税関係が清算されるため、毎年分割して贈与していけば相続時の税負担を軽減できます。
暦年贈与の効果
暦年贈与の効果は、1人につき年間110万円まで税金がかからない点です。長期にわたって計画的におこなえば、かなりの節税効果が見込めます。
贈与の対象となる財産に制約はなく、現金・預貯金・有価証券・不動産など、すべての財産が対象となります。
暦年贈与の注意点
便利な暦年贈与ですが注意点があります。
- ●年間110万円以上は課税対象
- ●同じ金額を毎年贈与していると定期贈与として課税対象となる
- ●贈与契約書を作成する必要がある
- ●資金の受け渡しを明確にする
- ●相続発生からさかのぼって7年以内だと課税対象となる
毎年同じ時期に同じ金額を贈与していると、定期贈与とみなされ課税されてしまうケースがあります。定期贈与とは、毎年一定の金額を贈与することが決まってることを指し、取り決めをした年に合計金額に対して課税されます。
生前贈与を定期贈与とみなされないためには、贈与するたびに贈与計画書を作成しましょう。また贈与する金額や時期も毎年ばらばらにするようにします。
また、資金の受け渡しを明確にするために、銀行口座に記録が残るようにしましょう。贈与者名義の銀行口座から受贈者名義の銀行口座へ直接振り込むようにすれば、記録として有効です。加えて贈与契約書の日付と資金の受け渡し日を一致させることも忘れないようにしましょう。
最も大きな注意点としては、相続発生からさかのぼって7年以内の生前贈与は、相続の対象金額に含まれることです。そのため暦年贈与は、相続の対象者の人数が多く、相続発生までに余裕がある人に向いています。
生命保険を契約する
故人が生前に保険料を負担した生命保険金を受け取った場合、相続税がかかります。しかし受取人が相続人の場合、「500万円×法定相続人の数」までなら非課税となります。
例えば、相続人が妻と子2人の場合、500万円×3=1500万円までは非課税です。生命保険を契約し、保険金の受け取りを相続人にしておけば、非課税の枠内までは相続税がかかりません。
非課税枠を利用すると次のような計算となります。
- ●法定相続人:子3名
- ●保険金の非課税限度額:500万円×3人=1,500万円
- ●保険金の総額:子3人分(1000万円×3)の合計で3,000万円
- ●課税対象額:3,000万円ー1,500万円=1,500万円
- ●一人当たりの課税対象金額:1,500万円/3=500万円
受けまった保険金を相続税のための納税資金にあてるという対策も有効でしょう。
ほかにも自分が生命保険に加入する際、契約者と受取人を子にし、親が贈与した財産を保険金の支払いにあてる方法もあります。支払保険料を年額110万円以下に押さえれば、贈与税がかからず、親の死後に子が死亡保険金を受け取れるでしょう。
不動産を活用する
相続税は、現金や預金で相続するよりも不動産で相続した方が税負担が小さくなります。また更地や空き家のままではなく収益物件として活用すると、さらに節税効果があります。
家屋の相続税評価額は、固定資産税評価額と同じです。市区町村が3年に一度家屋の価値を評価します。
新築物件でも固定資産税評価額は、建築費の60%程度で計算される場合が多いようです。さらに物件を賃貸に出している場合、さらに30%評価額が下がります。これに加え、「小規模宅地などの特例」を使えば、賃貸事業用の土地の評価額は200㎡を上限に50%下がります。
アパートなどを建てている土地は「貸家建付地」とよばれ、通常の評価額から借地権割合、貸家権割合、賃貸割合の3要素を減額できます。借地権割合は30~90%の間で国税庁が定めています。借家権割合と貸家割合は全国一律で30%です。
このように不動産相続は、さまざまな相続税の節税効果があります。ただし、相続人に平等に相続させる段階で争いが起きやすいため、遺言で相続人を指定しておく必要があります。
贈与税のかからない特例を利用する
生前贈与には暦年贈与以外にも贈与税がかからない特例が存在します。次のような特例を使えば一定額までは非課税での贈与が可能です。
- ●直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合
- ●直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を 受けた場合
- ●直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合
教育資金の場合は、30歳未満の子や孫に対して1500万円までは非課税です。対象となるのは学校の入学費用や授業料、学用品費、修学旅行費、学校給食費、スポーツや文化芸術に関する活動などです。ただし学校以外への支払いの限度額は1,500万円のうち500万円まで。当初は令和5年3月31日までとされていましたが、期限が延長され令和8年(2026年)3月31日までとなっています。適用されるには「教育資金非課税申告書」の提出が必要です。また子や孫が30歳になると原則として終了となります。(在学中の場合は最長40歳)
結婚や子育て資金の場合は、20歳以上50歳未満の子や孫を対象に1000万円相当まで。このうち結婚のための費用は300万円が限度となっています。住宅取得の場合は省エネ等住宅であれば1000万円、それ以外の住宅の場合は500万円までが非課税となります。現在のところ令和7年(2025年3月31日)までの時限装置ですが、今後、適用期間が延長される可能性があるかもしれません。
特例の贈与をおこなう場合は、金融機関や税務署での手続きが必要です
親子で同居する
自宅不動産の場合、小規模宅地等の特例を使えば、相続予定の不動産の評価額を80%下げられます。(330㎡上限)例えば、3000万の価値がある不動産でも80%減の600万円の評価となります。
ただし、この特例を使えるのは次のような条件を満たした人です。
- ●被相続人の配偶者(同居していなくてもOK)
- ●被相続人の同居親族(亡くなる前から同居し、相続税申告期限まで所有・居住)
- ●被相続人の別居親族(被相続人に配偶者や同居の相続人がいない、など)
親子で同居していれば、自宅不動産の相続にはかなりの節税となります。別居家族の特例の適用には、それぞれ要件があります。詳しくは専門家に相談してみましょう。
考えておきたい争族対策
これまで相続税対策について詳しくご紹介しました。生前贈与の非課税枠や基礎控除を使って、相続対象となる財産を圧縮しておくことで、不要な争いを防ぐ方法です。
しかし、それでも起こるのが相続争い。相続が争族に発展しないよう、生前にできる対策は次の3つです。
- ●遺言書をつくる
- ●相続財産の一覧をつくる
- ●生前にコミュニケーションをとる
- ●公平な生前贈与をする
詳しく見ていきましょう。
遺言書をつくる
遺言書を作成して、どの財産を誰に渡すのかを明確にしておきましょう。遺言書があれば、相続発生後の遺産分割協議の手間が省けます。
ただし不動産など完全に平等に分配するのが難しい場合は、付言事項で相続させる理由を明らかにし、無用な争いが起こらないようにしましょう。
相続財産の一覧をつくる
遺言書を作成する際に必要となりますが、相続財産の一覧を作っておきましょう。特に証券口座やネット銀行などデジタル資産の場合は書類がない場合も多く、死後に調べることは困難です。リストを作り、漏れがないようにしましょう。
遺産分割協議や相続税申告のやり直しをさせないためにも、一覧の作成は重要です。
生前にコミュニケーションをとる
死やお金について話題にするのはよくない、もしくは気まずい、そんな風潮があるかもしれません。しかし遺産分割でもめないためには、生前からコミュニケーションをとり、自分の意思を伝えておくことが重要です。
口に出してみて初めてお互いの気持ちや希望を確認できたなんてこともあるはず。いざ相続に直面したときに、家族間のトラブルが起こらないよう事前に話し合っておきましょう。
公平な生前贈与をする
相続人への生前贈与は、財産のスムーズな受け渡しと節税対策として効果的です。ただし、相続人ごとに贈与額に差額があると、亡くなったのちのトラブルに発展する可能性があります。
結婚資金や住宅購入、孫の教育資金などで積み重なった贈与額に大きな差が出ないよう、できるだけ平等に生前贈与をしていきましょう。
適切な相続対策には専門家に相談
少額の遺産でも裁判までもつれ込む事例はめずらしくありません。大切な家族が相続で仲違いしないよう、生前から対策を考えておきましょう。ただし相続対策には専門的な知識が必要です。
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