相続税の税率は最大55%|詳しい計算方法や控除についても解説
遺産を相続した際に気になるのが、相続税額ではないでしょうか。相続税は亡くなった方(被相続人)の財産を相続する際にかかる税金で、相続税額を算出するために用いる税率は10〜55%と幅があります。
また、相続税額を計算する際、相続した財産に税率をかけるだけでは算出できません。贈与財産や基礎控除額などを考慮したうえで計算する必要があり、実際の計算は複雑です。
そこで本記事では、相続税の税率と計算方法だけでなく、控除についても解説します。相続税の税率や計算方法を知り正しい相続税額を算出したい方は、ぜひ参考にしてください。
相続税の税率は10〜55%
相続税は、取得した遺産の評価額に応じて支払いが必要になる税金です。相続税の税率は、財産の金額に応じて10〜55%と幅広く設定されています。しかし、実際の計算方法は複雑で、単純に相続した財産に税率をかけて計算するわけではありません。
正味の遺産額から基礎控除額を差し引いて「課税遺産総額」を算出し、相続分で按分した「法定相続分に応ずる所得金額」に税率を乗じ、相続税を計算します。
当てはめる税率は、以下の速算表のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
次の項目で、詳しい計算方法を解説します。
相続税の計算方法
相続税は、以下5つの手順でおこないます。
- 1. 遺産総額から非課税財産や葬式費用、債務を引く
- 2. 遺産額に贈与財産を足す
- 3. 正味の遺産額から基礎控除額を引く
- 4. 法定相続分に応ずる取得金額を算定する
- 5. 速算表から相続税を算出する
それぞれの詳しい手順を解説します。
1. 遺産総額から非課税財産や葬式費用、債務を引く
はじめに、遺産総額から非課税財産や葬式費用、債務を差し引いた金額(遺産額)を算出します。計算式にまとめると、以下のとおりです。
遺産総額 -(非課税財産 + 葬式費用 + 債務)
遺産総額・非課税財産・葬式費用・債務の内容は、以下のとおりです。
遺産総額 | ・土地や建物 ・預貯金といったすべての相続財産 |
非課税財産 | ・墓所や仏壇・祭具など ・国や地方公共団体、特定の公益法人などに寄附した財産(相続税の申告の際には一定の手続きなどが必要になる) ・生命保険金(脂肪保険金)のうち以下の額まで 500万円 × 法定相続人の数 ・死亡退職金のうち以下の額まで 500万円 × 法定相続人の数 |
葬式費用 | ・被相続人の葬儀にかかった費用 |
債務 | ・借金など |
2. 遺産額に贈与財産を足す
手順1で算出した遺産額に、対象となる贈与財産を加算します。加算の対象となるのは、被相続人の生前に贈与を受けた財産の中でも、加算の対象期間内に贈与された財産です。
以前は相続開始日の同日から3年前の同日までのあいだに生前贈与された財産が対象でした。しかし、国税庁が発表し2024年(令和6年)1月1日に施行した「令和5年度 相続税および贈与税の税制改正」により、7年以内に被相続人から贈与された財産が対象となりました。
被相続人の相続開始日 | 加算対象期間 |
~令和8年12月31日 | 続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間) |
令和9年1月1日~令和12年12月31日 | 令和6年1月1日から死亡の日までの間 |
令和13年1月1日~ | 相続開始前7年以内(死亡の日からさかのぼって7年前の日から死亡の日までの間) |
対象となる財産がある場合は、遺産額に贈与財産の額を足しましょう。遺産額に贈与財産を加算した金額が「正味の遺産額」です。
3. 正味の遺産額から基礎控除額を引く
正味の遺産額から「基礎控除額」を引きます。基礎控除額とは、相続税のなかの非課税枠の金額です。正味の遺産額から基礎控除額を引いた金額が「課税遺産総額」となります。なお、正味の遺産額が基礎控除の額によってゼロになった場合、相続税は発生しません。
基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
被相続人に養子がいる場合、実施の人数によって法定相続人の数に含める養子の数に違いがでます。
実子がいる場合 | 法定相続人の数に含める養子の人数は1人 |
実子がいない場合 | 法定相続人の数に含める養子の人数は2人まで |
4. 法定相続分に応ずる取得金額を算定する
課税遺産総額を民法で定められた法定相続分に応じて分割し、取得金額を算出します。子どもや直系尊属(※1)・兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いる場合、原則として均等に遺産を分けます。
法定相続分は、以下のとおりです。
【配偶者と子どもが相続人の場合】
配偶者 | 2分の1 |
子ども | 2分の1(2人以上のときは全員で) |
【配偶者と直系尊属が相続人の場合】
配偶者 | 3分の2 |
直系尊属 | 3分の1(2人以上のときは全員で) |
【配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合】
配偶者 | 4分の3 |
直系尊属 | 4分の1(2人以上のときは全員で) |
例えば、1億円の課税遺産総額であり配偶者1人・子どもが4人だった場合、法定相続分の取得金額は以下となります。
〈配偶者〉1億円 × 2分の1 = 5,000万円
〈子ども〉4人で:1億円 × 2分の1 = 5,000万円 / 1人あたり:5,000万円 ÷ 4 = 1,250万円
孫は法定相続人に該当しないため、法定相続分も決められていません。
(※1)直系尊属とは父母・祖父母など自分より前の世代で、直通する系統の親族のこと。養父母も含まれる。叔父・叔母、配偶者の父母・祖父母は含まれない。
5. 速算表から相続税を算出する
法定相続分の取得金額から、相続税の総額を算出します。計算式は、以下のとおりです。
法定相続分の取得金額 × 税率 – 控除額 = 相続税額
税率や控除額は、以下の速算表に当てはめて計算します。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
ひとつ前の手順で例に挙げた、1億円の課税遺産総額であり配偶者1人・子供が4人だった場合、相続税の算出は以下のとおりです。
〈配偶者〉5,000万円 × 税率20% – 控除額200万円 = 800万円
〈子ども〉1,250万円 × 税率15% – 控除額50万円 = 137万5,000円
〈子ども2〉1,250万円 × 税率15% – 控除額50万円 = 137万5,000円
〈子ども3〉1,250万円 × 税率15% – 控除額50万円 = 137万5,000円
〈子ども4〉1,250万円 × 税率15% – 控除額50万円 = 137万5,000円
最後に、配偶者と子ども4人の相続税をすべて加算します。
800万円 + 137万5,000円 + 137万5,000円 + 137万5,000円 + 137万5,000円=1,350万円
なお、上記は法定相続分で算出した相続税の総額です。実際の相続割合により、各相続人の納税額は異なります。各相続人の相続税額の計算方法は、以下のとおりです。
相続税の総額 × 実際の相続割合 = 各相続人の相続税額
相続人によって税額の軽減措置がある場合には、各相続人の相続税額から税額軽減分や控除分を引いた金額が相続税額となります。
税額の軽減や控除については、記事内で後述します。
土地や家などの不動産を相続した場合は価値を計算する必要がある
土地や家屋など不動産は、現金や預金のように金額が目に見えてわかる遺産ではありません。そのため、相続財産に土地や建物などの不動産が含まれる場合は、価値を適切に評価し価額を算出する必要があります。
土地の評価方法には主に路線価方式と倍率方式があり、固定資産税評価額などを基に計算します。
路線価方式 | ・国税庁が発表している「路線価」を基に、土地の相続税評価額を計算する方法のこと 【計算式】地積 × 持分 × 路線価 |
倍率方式 | ・線価方式が適用にならない土地の相続税評価額を計算する方法のこと 【計算式】固定資産税評価額 × 倍率 |
建物の相続税評価額の算出は、固定資産税評価額を用います。
固定資産税評価額 × 1.0
ただし、土地の形や広さ、建物が賃貸であるかなどによって、相続税評価額の計算方法や控除の詳細は異なります。路線価方式と倍率方式での評価については以下の記事でくわしく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
〈リンク 不動産の相続税評価額とは?計算方法や減額要素を詳しく解説!〉
相続人によっては控除が受けられるケースがある
相続人によって、相続税の控除が定められている場合があります。
- ● 配偶者の税額軽減
- ● 未成年者の税額控除
- ● 障害者の税額控除
これらについて、くわしく解説します。
配偶者の税額軽減
相続人が被相続人の配偶者である場合「配偶者の税額軽減」の適用を受けられます。この制度では、配偶者が実際に取得した正味の遺産額のうち、以下のいずれか多い金額までは、配偶者の相続税がかかりません。
- ● 1億6000万円
- ● 配偶者の法定相続分相当額
相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。ただし、一定の条件を満たせば、申告期限から3年以内に分割した財産も税額軽減の対象となります。
配偶者の税額軽減を受けるためには、税額軽減の明細を記載した相続税の申告書や遺産分割協議書の写しなど、配偶者の取得した財産が分かる書類を提出する必要があります。
遺産分割をおこなった場合は、分割が成立した日の翌日から4か月以内に、更生の請求手続きが必要です。
未成年者の税額控除
相続人が18歳未満(※2)の未成年者である場合「未成年者の税額控除」が適用されます。この制度では、未成年者が満18歳になるまでの年数1年につき10万円を相続税額から控除できます。
以下すべてに当てはまる人が、未成年者税額控除の対象です。
- ● 相続や遺贈で財産を取得したときに日本国内に住所がある人(一時居住者で、かつ、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除きます。)、または②相続や遺贈により財産を取得したときに日本国内に住所がない人でも次のいずれかに当てはまる人
- ● 日本国籍を有しており、かつ、その人が相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがある人
- ● 日本国籍を有しており、かつ、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがない人(被相続人が、外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除きます。)
- ● 日本国籍を有していない人(被相続人が、外国人被相続人、非居住被相続人または非居住外国人である場合を除きます。)
- ● 相続や遺贈で財産を取得したときに18歳未満(※2)である人
- ● 相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること
未成年者控除額が未成年者本人の相続税額より大きく控除額の全額が引ききれない場合、差額を未成年者の扶養義務者(※3)の相続税額から差し引きます。
同一の未成年者の方が今回の相続より前の相続においても未成年者控除を受けている場合、控除額を制限されることがあります。
(※2)令和4年3月31日以前の相続または遺贈については「20歳」となる。
(※3)配偶者や直系血族および兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち一定の扶養義務者のこと。
障害者の税額控除
相続人が85歳未満の障害者である場合「障害者の税額控除」の適用を受けられます。この制度では、障害者が満85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)を相続税額から控除できます。
以下すべてに当てはまる人が、障害者控除の対象です。
- ● 相続や遺贈で財産を取得したときに日本国内に住所がある人(一時居住者で、かつ、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除きます。)
- ● 相続や遺贈で財産を取得したときに障害者である人
- ● 相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。
障害者控除額が障害者本人の相続税額より大きく控除額の全額が引ききれない場合、差額を障害者の扶養義務者(※4)の相続税額から差し引きます。
同一の障害者の方が今回の相続より前の相続においても障害者控除を受けている場合、控除額を制限されることがあります。
(※4)配偶者や直系血族および兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち一定の扶養義務者のこと。
相続税の計算は複雑なので専門家に相談を
相続税の計算は非常に複雑で、専門的な知識が必要とされます。財産の評価や控除などさまざまな要素を考慮しなければならず、少しの計算ミスが大きな問題につながりかねません。また、申告期限までに必要な書類をそろえるのも、場合によっては大きなご負担になるでしょう。
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