相続するなら土地と現金どちらが得?税理士が解説するメリット・デメリットと判断基準
遺産相続において「土地をそのまま相続するか、売却して現金で相続するか」という判断に迷われる方は少なくありません。相続税の負担や将来の活用方法を考えると、どちらが有利なのでしょうか。
結論から申し上げると、基本的には土地をそのまま相続する方が税制上有利です。土地などの不動産は現金と比較して相続税評価額が低く設定されるため、相続税の節税効果を期待できます。
ただし、相続人が複数いる場合の遺産分割や、相続後の管理負担を考慮すると、現金での相続が適している場面もあります。本記事では、土地と現金それぞれの相続におけるメリット・デメリットを詳しく解説し、どのような場合にどちらを選ぶべきかの判断基準をお伝えします。
土地相続と現金相続の基本的な違い
そもそも、土地と現金の相続に違いはあるのでしょうか。実はこの2つには大きな違いがあります。具体的には、以下の2つです。
● 相続税の評価の違い
● 相続後の活用方法の違い
それぞれ詳しく解説します。
相続税の評価方法の違い
土地と現金では、相続税を計算する際の評価方法が根本的に異なります。現金の場合は額面通りの金額で評価されますが、土地の場合は時価よりも低い価額で評価されるのが一般的です。
土地の相続税評価額は、路線価方式または倍率方式によって算出されます。路線価は実際の取引価格(時価)の約80%程度に設定されているため、同じ価値の財産でも土地として保有している方が相続税の負担を軽減できます。
場合によっては、土地を現金化するよりも相続税を軽減できる可能性もあるのです。
相続後の活用方法の違い
一方で、相続後に活用できる幅が広いのは現金です。現金の場合は相続後すぐに自由に使用できますが、土地の場合は売却や有効活用に時間がかかる場合があります。地域によっては買い手がつかず、そのまま放置になってしまう恐れもあるでしょう。
しかし、土地は長期的な資産価値の保持や、賃貸経営による収益化といった可能性も秘めています。社会情勢などによって変動しますが、資産が資産を形成する可能性が見出せるのであれば、土地の活用を前提に考えることもおすすめです。
土地を相続する4つのメリット
土地をそのまま相続すると、次のような現金にはないメリットを享受できます。
● 相続税評価額が現金より低くなる
● 小規模宅地等の特例による大幅な減額が受けられる
● 賃貸物件はさらに評価額が下がる可能性がある
● 長期的な資産価値の維持・向上が期待できる
それぞれ詳しく見てみましょう。
相続税評価額が現金より低くなる
土地の最大のメリットは、相続税評価額が時価よりも低く算定されることです。路線価方式で評価される土地の場合、実際の取引価格の約80%で評価されるため、同じ価値の財産でも現金と比較して相続税を大幅に節税できるのです。
小規模宅地等の特例による大幅な減額が受けられる
居住用や事業用の土地については、小規模宅地等の特例を適用できる場合があります。居住用宅地の場合は330平方メートルまで、評価額を80%減額できるため、非常に大きな節税効果が見込めるでしょう。
例えば、評価額6,000万円の居住用宅地であれば、特例適用により1,200万円まで評価額を下げることが可能です。現金化するよりも相続税を抑えられるため、土地の評価額をしっかりと見定めることも重要です。
賃貸物件はさらに評価額が下がる可能性がある
上記の小規模宅地等の特例に加えて、土地上に賃貸アパートやマンションが建っている場合、「貸家建付地」として評価されてさらに評価額が下がる可能性があります。一般的に、自用地評価額から10%~20%程度の減額が可能です。
長期的な資産価値の維持・向上が期待できる
立地の良い土地であれば、長期的に資産価値を維持したり、場合によっては向上させたりする可能性があります。インフレ対策としても有効な資産といえるでしょう。現金にしてしまうと、額面通りの価値から向上することはなくなってしまうため、専門家の意見を仰ぎながら土地を維持するかどうかを決めてください。
土地を相続する4つのデメリット
一方で、土地を相続すると次のようなデメリットも考えられます。
● 遺産分割が困難になりやすい
● 相続税の納税資金が不足する恐れがある
● 維持管理費用と手間がかかる
● 活用方法が限定される
具体的な解決策も併せてみてみましょう。
遺産分割が困難になりやすい
土地は物理的に分割することが難しく、相続人が複数いる場合の遺産分割で問題となりやすい資産です。共有名義での相続も可能ですが、後々のトラブルの原因となる可能性があります。
一時的に共有名義で相続したものの、その後親族間の関係が悪くなるなどして争いに発展するケースも珍しくありません。これらのトラブルを避けるためにも遺言書による相続方法の指定や、現金化して土地を手放してしまうなどの方法を検討すると良いでしょう。
相続税の納税資金が不足する恐れがある
土地は現金化に時間がかかるため、相続税の納税期限(相続開始から10ヶ月)までに納税資金を準備できない場合があります。相続税は原則として現金での納付が必要なため、他に現金資産がない場合は困難な状況に陥る可能性があります。
特に一等地や地価が今後高くなると予測される場合は要注意です。土地にまつわる相続税の計算は非常に複雑であるため、相続に強い税理士に相談し、対策を立てるようにしましょう。
維持管理費用と手間がかかる
土地を所有し続ける場合、固定資産税の支払いや定期的な管理が必要です。年に1回のことではあるものの、住んでいない場合には経済的にも大きな負担となってしまうでしょう。
また、建物がある場合は修繕費用なども発生します。屋根や外壁、庭の手入れなど、土地によって異なるものの定期的に膨大な管理費がかかるのも事実です。管理や維持費の負担を減らしたいのであれば、相続放棄や相続土地国庫帰属制度を活用するほか、売却も視野に入れて検討する必要があります。
活用方法が限定される
土地の立地や形状によっては、有効活用が困難な場合があります。需要の少ない地域の土地の場合、売却も困難で、持て余してしまう可能性もあるでしょう。特に山や森林などの活用方法がそもそもない土地の場合、どうしようもなくなってしまう恐れもあります。
先に紹介した相続土地国庫帰属制度を活用する、相続放棄をするなどして、活用方法が見いだせない土地は手放してしまうことも検討してください。
現金相続の3つのメリット
ここまで土地を相続する場合のメリット・デメリットについて解説してきましたが、同様に現金の相続にもメリット・デメリットがあります。現金相続の具体的なメリットは、以下の3つです。
● 遺産分割が平等かつ簡単にできる
● 相続税の納税資金として活用できる
● 管理の手間や費用がかからない
それぞれ詳しく解説します。
遺産分割が平等かつ簡単にできる
土地と比較した場合、現金は相続において平等かつ簡単に相続できます。現金は1円単位まで正確に分割できるため、相続人間での平等な遺産分割が可能です。相続人が複数いる場合でも、法定相続分に応じて正確に分配できるため、相続争いを避けやすくなります。
相続税の納税資金として活用できる
相続した現金を、そのまま相続税にあてがうことも可能です。相続税は原則として現金での納付が必要なため、現金での相続は納税資金の確保という観点で非常に有利です。相続開始から10ヶ月という納税期限を考慮しても、資金準備に困ることは少なくなるでしょう。
管理の手間と費用がかからない
現金は維持管理費用がかからず、固定資産税などの継続的な税負担もありません。相続後の手続きも比較的簡単で、すぐに自由に使用できる点は大きなメリットといえます。
現金相続のデメリット
一方で、現金による相続にもデメリットがあります。
最大のデメリットは、額面通りの金額で相続税が計算されることです。土地の場合に適用される評価額の減額措置などがないため、同じ価値の財産でも相続税の負担が重くなります。また、小規模宅地等の特例のような大幅な減額制度も適用できないため、税制上の優遇措置を受けられません。
現金を相続する場合は、額面通りの金額に適用される相続税を支払わなければならない点に注意してください。
土地と現金の相続税比較シミュレーション
5,000万円の財産を相続する場合の比較
具体的な数値で土地相続と現金相続の相続税の違いを見てみましょう。配偶者と子1人の計2人が相続人の場合を想定します。
現金5,000万円を相続する場合
● 相続税評価額:5,000万円
● 基礎控除額:4,200万円(3,000万円+600万円×2人)
● 課税遺産総額:800万円(5,000万円-4,200万円)
● 各相続人の課税額:400万円ずつ
● 相続税額:配偶者40万円、子40万円、合計80万円
● 配偶者控除適用後:子のみ40万円の納税
5,000万円相当の土地を相続する場合
時価5,000万円の土地を路線価(時価の80%)で評価すると、以下のとおりとなります。
● 相続税評価額:4,000万円
● 基礎控除額:4,200万円
● 課税遺産総額:0円(基礎控除額以下)
● 相続税額:0円
さらに小規模宅地等の特例が適用できる場合は、より大幅な節税効果を期待できます。
1億円の財産を相続する場合
より高額な財産の場合、節税効果はさらに顕著になります。
現金1億円を相続する場合
● 課税遺産総額:5,800万円
● 相続税額(配偶者控除適用後):子のみ約385万円
1億円相当の土地を相続する場合
● 相続税評価額:8,000万円(路線価80%適用)
● 課税遺産総額:3,800万円
● 相続税額(配偶者控除適用後):子のみ約230万円
土地で相続することにより、約155万円の節税効果を得られるのです。
土地での相続が有利なケース
相続税の節税を重視する場合
相続財産が基礎控除額を超える場合は、土地での相続が税制上有利です。特に以下の条件が揃っている場合は大きな節税効果を期待できます。
● 土地の価値が高い(3,000万円以上)
● 小規模宅地等の特例を適用できる
● 他に十分な現金資産がある
長期的な資産保全を目指す場合
将来的なインフレリスクを考慮し、長期的な資産価値の保持を重視する場合は土地での相続が適しています。特に立地の良い住宅地や商業地の場合、将来的な価値向上も期待できます。
賃貸経営などの活用予定がある場合
相続後に賃貸経営や駐車場経営などで収益化を図る予定がある場合は、土地での相続が適しています。ただし、賃貸経営には一定のリスクも伴うため、事前の市場調査が重要です。
現金での相続が有利なケース
相続人が複数で平等な分割を重視する場合
相続人が複数おり、平等な遺産分割を最優先とする場合は、現金での相続が適しています。土地の場合は物理的な分割が困難で、共有名義や代償分割などの複雑な手続きが必要になる場合があります。
相続後すぐに資金が必要な場合
相続人が事業資金や教育資金、住宅購入資金などですぐに現金が必要な場合は、現金での相続が実用的です。土地の場合は売却に時間がかかる可能性があります。
不動産管理の負担を避けたい場合
高齢の相続人や遠方に住んでいる相続人の場合、土地の管理負担を避けたいというニーズがあります。このような場合は現金での相続が負担軽減につながります。
相続財産が基礎控除額以下の場合
相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×相続人数)以下の場合は、そもそも相続税が発生しません。税制上のメリットがないため、使い勝手の良い現金での相続が適している場合が多いでしょう。
土地相続時の重要な注意点
相続登記の義務化
2024年4月から相続登記が義務化されました。土地を相続した場合は、相続開始から3年以内に相続登記を行わなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記には以下の手続きが必要です。
● 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本の取得
● 相続人全員の戸籍謄本と住民票の取得
● 遺産分割協議書の作成(遺言書がない場合)
● 法務局での登記申請
共有名義相続のリスク
相続人が複数いる場合、安易に共有名義で相続することは避けるべきです。共有名義の土地は以下のような問題を抱えやすくなります:
- 売却時に共有者全員の同意が必要
- 一部の共有者が行方不明になると処分が困難
- 次世代への相続でさらに共有者が増加
相続税の納税期限
相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日から10ヶ月以内です。土地メインの相続の場合、納税資金の準備が間に合わない可能性があるため、以下の対策を検討する必要があります。
● 延納制度の活用(年払いでの納税)
● 物納制度の活用(土地での納税)
● 一部土地の売却による現金確保
小規模宅地等の特例の適用要件
小規模宅地等の特例を適用するためには、厳格な要件を満たす必要があります。
居住用宅地の場合
● 配偶者が相続する場合:無条件で適用
● 同居親族が相続する場合:相続後も居住継続が条件
● 別居親族が相続する場合:家なき子特例の適用要件を満たす必要
事業用宅地の場合
● 事業継続要件:相続後も同じ事業を継続する必要
● 保有継続要件:申告期限まで土地を保有し続ける必要
土地のままの相続と現金での相続を迷ったら専門家に相談しましょう
土地と現金の相続について、それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説しました。
税制上の観点では、基本的に土地での相続が有利です。相続税評価額の優遇措置や小規模宅地等の特例により、大幅な節税効果を期待できます。特に相続財産が高額な場合や、特例の適用要件を満たす場合は、土地での相続を検討すべきでしょう。
一方で、遺産分割の平等性や相続後の利便性を重視する場合は現金での相続が適しています。相続人が複数いる場合や、すぐに資金が必要な場合、不動産管理の負担を避けたい場合は現金での相続がメリットを発揮します。
重要なのは、個々の事情に応じて最適な選択をすることです。相続財産の規模、相続人の状況、将来の活用予定などを総合的に考慮し、必要に応じて税理士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
相続は一度限りの重要な手続きです。後悔のない選択をするためにも、早めに情報収集と検討を始めることが大切です。
