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生前贈与の制度改正についてわかりやすく解説!影響や対策も知ろう

生前贈与は2023年に制度改正があり、生前贈与の加算期間や非課税枠が新設されるなどといった内容が改正されました。制度改正によって、相続税の負担が増える可能性だけでなく、暦年課税よりも相続時精算課税制度のほうが適切となるケースが増える見込みです。

そこで本記事では、生前贈与の制度改正についての概要や、制度改正による影響・対策方法について解説します。相続の節税対策として生前贈与を考えている方は、ぜひ参考にしてください。

贈与税を計算するための2つの課税方式

贈与税には「暦年課税」「相続時精算課税制度」という2つの課税方式があります。どちらの制度を選択するかは、財産を残す人自身で選択が可能です。ただし、相続時精算課税制度については、贈与者と受贈者に一定の制限があるため、誰もが選択できる課税方式ではありません。

これらの課税方式についての違いを解説します。贈与者・受贈者の制限、非課税枠、贈与税の申告に関する内容についてなど、詳しく見ていきましょう。

暦年課税

暦年課税は、1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与によって受け取った財産の価額合計に基づいて課税される方式です。

年間110万円の基礎控除があり、これを超える部分に対して課税されます。基礎控除後の課税価格に応じ、10〜55%内の8段階で超過累進税率が適用となります。

贈与者と受贈者の関係や年齢に制限がなく誰もが適用可能な点が、暦年課税の特徴です。

贈与者(あげる人)親族間ほか、第三者を含む誰からでも可
受贈者(もらう人)誰でも可
非課税枠基礎控除:毎年110万
税率(非課税の限度額を超えた場合)10%~55%で8段階(別途詳細記載)
相続時相続の前7年以内に贈与を受けた財産を相続財産として加算する。(ただし相続の前3年超7年以内に贈与を受けた財産は、総額100万円まで加算対象外)
参考:財務省「贈与税に関する資料|贈与税の概要」
税率課税財産額(基礎控除を超えた課税対象額)
直系卑属一般
10%~200万円~200万円
15%~400万円~300万円
20%~600万円~400万円
30%~1,000万円~600万円
40%~1,500万円~1,000万円
45%~3,000万円~1,500万円
50%~4,500万円~3,000万円
55%4,500万円~3,000万円~
参考:財務省「贈与税に関する資料|贈与税の概要|1.暦年課税の仕組み」

基礎控除後の財産額が課税対象となるため、1年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税は発生しません。ただし、贈与者が亡くなった場合、死亡前7年以内の贈与は相続財産になり相続税として加算される点には、注意が必要です。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、生前贈与と相続財産を一体化して課税する方式です。贈与時に2,500万円までの特別控除(非課税枠)があるため、2,500万円までは贈与税を納めずに贈与を受けられます。これを超える部分には、一律20%の贈与税が課されます。

贈与者が亡くなった際には、それまでの累積贈与額を相続財産に加算し、相続税として一括で精算することとなります。贈与時に支払った贈与税は相続税計算時に控除されるため、長期的な視点での税金対策が可能な制度です。

ただし、相続時精算課税制度の適用には、贈与者と受贈者の条件があります。また、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、必要書類と共に「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければなりません。

贈与者(あげる人)贈与した年の1月1日時点で60歳以上の祖父母、または父母
受贈者(もらう人)贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の孫、および推定相続人
非課税枠基礎控除:毎年110万円
特別控除:2,500万円(限度額までなら複数回に分けて使用可能)
税率(非課税の限度額を超えた場合)一律で20%
相続時基礎控除を除き、贈与を受けた際の時価で相続財産として加算される。※相続税額を超えて納付した贈与税は還付される
参考:財務省「贈与税に関する資料|贈与税の概要」

一度この制度を選択すると、その後暦年課税に戻すことはできません。ただし、別の贈与者からの贈与に関しては、暦年課税を利用することが可能です。

生前贈与の制度改正で2023年から変更になった3つのポイント

生前贈与の制度は2023年に改正になり、大きく3つの内容が変更になりました。変更されたポイントは、以下のとおりです。

  • ● 生前贈与加算の期間が変更
  • ● 相続時精算課税制度に110万円の非課税枠が新設
  • ● 特定贈与にかかる贈与税の非課税措置が延長

これらについて、どのような内容なのか詳しく見ていきましょう。

生前贈与加算の期間が変更

2023年(令和5年)の税制改正による大きな変更点として、暦年課税における生前贈与の相続財産への加算期間が挙げられます。以前は被相続人の死亡前3年以内の贈与が対象でしたが、2024年1月1日以降、期間は7年に延長となりました。

ただし、新制度が適用になるのは2024年(令和6年)1月1日以降に受けた贈与に対してです。2023年12月31日までに受贈したものには適用されません。さらに、延長された4年間(相続開始前4年目から7年目)については、贈与総額100万円までは相続財産に加算されないことも、あわせて決定されました。

生前贈与加算の期間変更は実質的な増税となるため、多くの方の相続税対策に影響を与える可能性があります。専門家に相談し、適切な対応を検討することが重要です。

相続時精算課税制度に110万円の非課税枠が新設

相続時精算課税制度の非課税枠新設は、2023年度の税制改正による大きな変更点です。2024年1月1日から、年間110万円の基礎控除(非課税枠)が新設されました。これにより、毎年110万円までの贈与に対して贈与税がかからず、申告も不要となります。

従来は2,500万円までの贈与が非課税でしたが、基礎控除がなく、少額贈与でも申告が必要でした。新制度では、相続時に「基礎控除を差し引いた累計贈与額」を相続財産に加算するため、実質的な節税効果が期待できます

基礎控除分が差し引かれるようになったことから、相続時精算課税制度の活用が適しているケースが増加すると考えられます。

特定贈与にかかる贈与税の非課税措置が延長

2023年3月31日で終了予定だった結婚・子育て資金における一括贈与の特例が、2023年度の改正でそれぞれ延長が決定しました。非課税措置の延長期間は、以下のとおりです。

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置3年間延長※2026年(令和8年)3月31日まで
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置2年間延長※2025年(令和7年)3月31日まで
参考:財務省「贈与税に関する資料|贈与税の概要」

要件は現行制度と変わりありません。大まかな概要は、以下のとおりです。

教育資金の一括贈与結婚・子育て資金の一括贈与
受贈者0~29歳の子供・孫※合計所得金額1,000万円以下18~49歳の子供・孫※合計所得金額1,000万円以下
贈与者の死亡時死亡時の残高は相続財産に加算される
契約の終了時残高に対して贈与税が加算される

特定贈与の要件には、上の表に記載した内容に加えて細かな要件が定められています。詳細は財務省「贈与税に関する資料|贈与税の概要」内、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置にてご確認いただけます。

生前贈与の制度を改正する目的は相続税と贈与税の負担を一定にすること

生前贈与の制度改正は、相続税と贈与税の負担を一定にすることが目的です。

相続税とは、相続による財産取得時に課される税金であり、贈与税は個人間の贈与時に課される税金です。現状、贈与税は相続税よりも高い税率で課税されますが、生前の少額贈与を繰り返すことで相続税の負担を軽減できる仕組みとなっています。この仕組みには、相続税の納税から逃れようとする行動を防ぐ役割があります。

そのことから、相続税と贈与税をより一体的に捉える動きがあり、生前贈与の制度改正が進みました。より公平で一貫性のある相続・贈与税制が実現することに期待されます。

生前贈与の制度改正がもたらす3つの変化

生前贈与の制度改正を受けて、大きく3つの変化が起こると考えられます。3つの変化は、以下のとおりです。

  • ● 相続税の負担が増える可能性がある
  • ● 若い世代への財産移転が進みやすくなる
  • ● 暦年課税よりも相続時精算課税制度のほうが適しているケースが増える

これらについて、詳しく見ていきましょう。

相続税の負担が増える可能性がある

生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されることは、実質的な相続税の増税と言えます。この改正の目的は、財産移転のタイミングに関わらず税負担を一定にすることです。

しかし、相続開始前7年間の贈与が相続財産に加算されるため、相続税の課税対象となる財産が増加し、結果として相続税の負担が重くなる可能性があります。延長された4年間については100万円までの贈与が加算対象外となる措置も設けられていますが、長期的な相続対策の見直しが必要となるでしょう。

若い世代への財産移転が進みやすくなる

改正前は贈与税が相続税よりも高率だったため、若い世代への財産移転が進みにくい状況でした。しかし、改正後は贈与税と相続税の負担が近づくことで、より早い時期での財産移転の促進が期待されています。

これにより、若い世代が資産を活用した経済活動の機会が増え、活性化につながる可能性があります。ただし、具体的な経済効果については、今後の動向を注視する必要があるでしょう。

暦年課税よりも相続時精算課税制度のほうが適しているケースが増える

2023年の制度改正により、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設されます。これにより、2024年1月1日以降、年110万円までの贈与は贈与税も相続税もかからなくなります

例えば、子どもに財産を前倒しで渡したい場合などは、暦年課税よりも相続時精算課税制度が適していると言えます。亡くなる直前の贈与でも、年110万円までは相続財産に加算されないためです。

ただし、相続時精算課税制度を一度選択すると、同一の受贈者からの贈与分では課税制度の変更はできません。個々の状況に応じて慎重な検討が必要であるため、専門家に相談することをおすすめします。

相続税の負担を減らすためにできる3つの対策

今回の改正で相続税の増額が懸念されますが、負担を減らすためにできる3つの対策があります。

  • ● 価格が下がっている財産を贈与する
  • ● 孫に贈与する
  • ● 専門家に相談する

これらの対策方法について、具体的にどのような行動をとれば良いのか、詳しく見ていきましょう。

価格が下がっている財産を贈与する

改正後は、被相続人の死亡前7年間の贈与額が相続財産に加算され、その額には「贈与時の価額」が適用されます。そのため、財産価格が下がっているタイミングでの贈与を検討すると、相続税の負担軽減につながる可能性があります

例えば、不動産や株式などの価格変動が大きい資産の場合、市場の動向を見極めて贈与のタイミングを計ることで、将来の相続税負担を抑えられる可能性があります。

孫に贈与する

相続税対策として、子どもだけでなく孫への贈与も有効な選択肢となります。生前贈与の加算対象は、相続や遺贈によって財産を取得する人に限られ、孫は原則として法定相続人になりません。そのため、孫への贈与は生前贈与の加算対象外となります

この仕組みを活用することで、相続税の負担を軽減できる可能性があります。ただし、孫の年齢や家族関係、将来の資産活用計画なども考慮して、総合的に判断することが重要です。

専門家に相談する

適切な相続税対策は各家庭の状況によって大きく異なるため、自己判断は難しい場合があります。そのため、税理士などの専門家への相談を強くおすすめします。専門家は個別の状況を詳しく分析したうえで、最適な対策を提案が可能です。

例えば、暦年課税と相続時精算課税制度の選択、資産の種類や贈与のタイミングなど、複雑な要素を考慮した総合的なアドバイスを得られます。

生前贈与のことならひろしま相続・不動産ホットラインに相談を

2023年の税制改正により、生前贈与の制度は大きく変わりました。加算期間の7年への延長、相続時精算課税制度への基礎控除新設など、相続税と贈与税の一体化が進んでいます。

これらの変更により、若い世代への資産移転の促進が期待される一方、相続税負担の増加や贈与のタイミングを考え直す必要が出てきました。複雑な制度改正の中で、適切な相続対策を自己判断するのは難しい場合が多いでしょう。

私たちひろしま相続・不動産ホットラインでは、経験豊富な相続のプロが、最新の制度に基づいた適切なアドバイスを提供します。

暦年課税と相続時精算課税制度の選択、贈与のタイミング、資産の種類など、各ご家庭の状況によって最適な方法のご提案が可能です。将来の相続に備えた効果的な資産移転計画を立てるためにも、ぜひ私たちにご相談ください。

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監修者 税理士 棚田秀利