不動産の共有持分を相続したら?取るべき対処方法を紹介
不動産の共有持分を相続した場合、共有物の全部(不動産の全部)について、その持分に応じた使用をすることができます。しかし、賃貸として活用する・リフォームする・売却するなどは、原則共有者全員の同意がないと行えません。
独断で不動産の方針などを決められないことから取り扱いが難しい場合も多く、他者が関わってくるためにトラブルが起こる可能性も考えられるでしょう。
本記事では、共有持分を相続した場合のリスクや取るべき対処方法について解説します。共有持分の固定資産税だけを支払い損してしまわないよう、参考にしてください。
共有持分とは
共有持分とは、ひとつの不動産を複数人で所有している場合の「それぞれの所有権の割合」のことです。権利上の割合であり、目にみえる形で物理的な所有スペースが決まっているわけではありません。
不動産の所有権の割合は「○分の○」という形式で表され、遺産分割をする前は共有者に均等に共有持分が割り振られます。例えば4人で一つの不動産などを所有するとなれば、一人当たりの共有持分は「4分の1」です。
自身の共有持分のみであれば、売却などの処分は自由に行えます。しかし、不動産全体の活用や売却・抵当権の設定などは、共有持分を保有しているほかの共有者の承諾を得なければなりません。
共有持分になる不動産の具体例
不動産などが共有持分となるには、いくつかの状況が考えられます。具体例は、以下のとおりです。
- ● 夫婦などで共同購入した場合
- ● 相続によって共有名義にした場合
- ● その他
それぞれの具体例を、詳しく見ていきましょう。
夫婦などで共同購入した場合
夫婦で資金を出し合ってマイホームを購入したり、二世帯住宅のために親子で購入資金を用意したりするケースが、共同購入にあたります。また、また、子どものマイホーム購入時に親が資金援助をして共有名義にするといった事情がある場合も、共同購入に該当します。具体例は以下のとおりです。
- ● 夫婦でお金を出し合いマイホームを購入した
- ● 二世帯住宅のために親子でお金を出し合い家を購入した
- ● マイホームの購入資金を親が援助した
これらのケースでは、それぞれが拠出した金額に応じて共有持分の割合が決められ、共有持分を所有することになります。
相続によって共有名義にした場合
相続で不動産を取得する際、複数の相続人で共同名義にするケースがあります。この場合の持分割合は、法定相続分に基づいて決定されるか、相続人同士の話し合いによって決められます。具体的な例として、以下のような状況があるでしょう。
- ● 故人の不動産を相続する際に親族の複数人で共同名義にした
- ● 親が所有していた共有持分を相続した
上記の例に記載のとおり、すでに共有持分となっている不動産を相続する場合も、共有持分の所有に該当します。
相続による共有持分は、必要に応じて放棄することも可能です。持分放棄の登記を行うことで正式に放棄が成立します。
その他
私道の共有やマンションの共用部分などといった不動産も、共有持分になります。私道の共有持分は、接道する土地所有者たちで共有するのが一般的です。一方、マンションの共用部分については、廊下やエレベーターといった共有部分が該当します。具体例は以下のとおりです。
- ● マンションの廊下やエレベーターなど共用設備の権利を持っている
- ● 近隣住民同士で私道の持分を共有している
私道については、共有している住民の人数に合わせて私道の所有権が決まります。例えば、1つの私道を3人で持っている場合、それぞれの共有持分は「3分の1」です。
マンションの共用設備に関しては、権利者全員を登記するのは難しい場合があります。そのため、近年では「規約共有部分」という扱いになり、共有持分としての権利が登記されない例も増えました。
しかし、昔からあるような古い団地やマンションでは共用設備を共有持分として登記されていることも珍しくありません。これらの共有持分は、相続財産に含まれます。相続税の課税対象にもなり、相続手続きも必要です。
共有持分を相続したときに取るべき対処法
共有持分のリスクを考えて、相続したくないと思う方もいらっしゃるでしょう。共有持分を相続したときに取れる対処法は、以下のとおりです。
- ● 売却する
- ● 放棄する
- ● 分筆する
これらについて、くわしく解説します。
売却する
共同で所有している不動産のすべてを勝手に売却はできませんが、自身の共有持分のみであれば自由に売却できます。親族などではない、まったくの他人に売却も可能です。
不動産すべてを所有できる単独所有権に比べると、売却の価格はどうしても低くなります。しかし、相続税が今後もかかり続けると考えれば、所有しているだけの共有持分は売却してしまうのがよい場合も多いでしょう。
放棄する
共有持分は、放棄することも可能です。放棄した分は、不動産を共有するほかの持分者に移転します。ただし、持分放棄の登記や贈与税について、放棄は早い者勝ちだという点について注意が必要です。
本人が放棄の意思表示をすること・共有持分放棄の登記申請を行うことで、共有持分の放棄が成立します。共有持分放棄の登記申請は、共有者に持分を移すという扱いであるため「所有権移転登記」です。
所有権移転の手続きではありますが、税法上では持分放棄は「贈与」になるために贈与税が発生する場合もある点、理解が必要です。
また、共有者全員が持分を放棄して最後の1人になった場合には、不動産の単独所有となります。その場合、放棄はできなくなるため、売却・贈与などの方法で不動産を手放す必要が出てきます。
分筆する
共有持分を分筆することで、それぞれが不動産を単独所有している状態にできます。分筆とは、土地を分割し、独立したひとつの土地として登記の手続きを行うことです。
土地を分筆する際に、建物があっても分筆できます。基本的には建物がある土地とない土地に分けますが、どちらの土地にも建物がある状態での分筆も可能です。
一方で、土地の形状や道路に接しているかの状況・市街化調整区域かなどにより分筆ができない場合もあります。自身の共有持分の不動産が分筆できるか否かは、役所や専門家へ確認するのがおすすめです。
不動産を共有していた方が亡くなった場合の名義変更
不動産の共有持分は、単独所有と同様に相続が発生すれば名義変更が必要です。共有していた不動産の相続で注意しなければならないのは「共有名義の不動産で所有者の一人が亡くなった場合、その人の持分はほかの共有者へ自動的に移るわけない」という点です。
「共有者だから優先的に相続できる」と思われる方もいらっしゃいますが、実際には亡くなった方の共有持分は相続財産となり、亡くなった方の法定相続人が相続することになります。
例えば、父と叔父で共有していた不動産で父が亡くなった場合、父の持分は叔父ではなく、父の法定相続人が相続します。相続人の順位は通常の相続と同じです。配偶者は必ず相続人となり、その他の相続人は、第1順位が子、第2順位が親などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹となります。
もちろん、相続人間の協議により、残された共有者に相続させることも可能です。ただし、いずれの場合でも、法務局での名義変更登記は必須となります。
不動産を共有していた方が亡くなったときの手続き方法
共有者が亡くなった場合、その持分については相続登記することになります。まず、遺言書の有無を確認することが重要です。遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って相続登記を進めます。ただし、自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要となります。
遺言書がない場合は、戸籍調査で相続人を確定させた上で、相続人全員による遺産分割協議を行います。話し合いがまとまれば、その内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員の実印での押印と印鑑証明書を準備します。
なお、2024年4月からは相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知ってから3年以内に登記申請をしなければなりません。また、相続税の申告と納付は死亡を知った日の翌日から10か月以内となっています。期限内の適切な手続きを行うため、専門家への相談をおすすめします。
不動産を共有で所有するリスク
共有持分は不動産を共有で所有している他者がいるため、独断で不動産全体の方針を決めることはできません。そのことから、不動産を共有で維持する場合に以下のリスクが考えられます。
- ● 活用・売却しにくい
- ● 今後の相続の際がより複雑になる
- ● 放置される
- ● 共有者が勝手に売却する恐れがある
- ● 私道などは相続を失念する可能性がある
一つひとつ、詳しく見ていきましょう。
活用・処分がしづらい
不動産を共有で所有していると、誰かひとりの判断で活用や売却などの方針を決められません。賃貸やリノベーションでの増改築・抵当権の設定などを行うためには、所有者全員の同意が必要です。
複数人で共有している不動産で独断にてできることは、保存と使用のみとなります。ひと家族だけで別荘として利用したり、1人で住むなどが可能です。使用している中で、不動産の軽い修繕などはできますが、リノベーションなどのレベルで修繕はできません。
活用・処分のどちらにしても、共有者全員の話し合いと同意が必要になる点はデメリットになりえます。話し合いができずに方向性が決められないことは、大きなリスクになるでしょう。
今後の相続の際がより複雑になる
不動産を共有している人が亡くなった場合、相続が行われることになります。共有持分からさらに細かく分けて相続される場合もあり、不動産の共有者が増え複雑になる可能性があるでしょう。
本来必要な登記がされないといったケースもあり、誰が共有で所有しているのか・どの程度の割合を所有しているのかが不明になることも考えられます。
共有している所有者が不明になれば、不動産の売却などを進めるのは容易ではありません。
放置され維持管理コストだけがかかる
不動産の共同所有は、活用や売却などをする際に所有者全員の同意が必要です。人数が多くなればなるほど話し合いは簡単にできず、不動産が放置される結果になりかねません。
不動産を所有しているだけで、固定資産税などの維持管理コストはかかります。なにもできずただ所有しているだけなのに、コストはかかり続ける結果になってしまいます。
共有者が勝手に売却する恐れがある
共有持分は、自分の分だけであれば売却が可能です。例えば、今まで親戚の4人で共有していたとしても、その先も必ず親戚同士で共有しなければならないわけではありません。誰か1人の共有者が、見ず知らずの他人に売却もできます。
不動産について方針を決めたい場合など、まったくの他者も交え話し合いをするのは容易ではありません。また、共有持分の専門業者などに売却された場合、ほかの持分について譲渡を求められるなどのトラブルになる可能性も考えられます。
私道などは相続を失念する可能性がある
土地や建物を単独で所有していても、前面道路が私道の場合、その私道の持分を所有しているケースがよくあります。特に、複数の建売住宅を開発した際に、公道へのアクセスを確保するために設けられた私道などが該当します。
注意が必要なのは、この私道部分が公衆用道路として非課税扱いになっているケースです。固定資産税が発生していないため、所有者本人さえ忘れてしまうことがあり、相続人はなおさら共有持分の存在を認識できない可能性が高くなります。
しかし、この私道持分の相続登記を怠ると、後々の不動産売却時に大きな支障となる可能性があります。相続手続きの際は、土地の権利関係を正確に把握している司法書士などの専門家に依頼し、私道持分も含めた包括的な相続登記を行うことがおすすめです。
私道の共有持分が相続の対象になった場合
土地や建物といった不動産自体を単独所有していても、不動産の前面道路が私道で、近隣住民と共有して持っている場合があります。私道の共有持分も、相続の際には名義変更が必要です。
私道の共有持分は公衆用の道路という扱いになる場合も多く、固定資産税の支払いがないといった状況であることも考えられます。
税金の支払いがないからといってうっかり相続登記を忘れてしまうと、のちに大きなトラブルになりかねません。私道の共有持分については、特に慎重になる必要があります。
- ● 私道の共有持分の登記手続き
- ● 私道持分がないと再建築ができない
以上の2点について、くわしくみていきましょう。
共有持分の登記手続き
土地を単独所有と私道の共有持分の登記手続きは、登記により移転する権利が「すべて移転する」「共有持分のみ移転する」のかが違う点になります。
基本的な登記にかかる流れや方法は同じです。しかし、登録免許税の計算については、単独所有と共有持分で異なります。
共有持分の計算については、土地や建物の評価だけでなく、持分を乗じるなどの計算方法を用いなければなりません。登記手続き上での違いも出てくるため、共有持分の登記手続きは専門家への相談がおすすめです。
私道持分がないと再建築できない
私道持分を相続登記していないと、建物の再建築ができないといったトラブルにつながる可能性があります。建築基準法の第四十三条以降に記載されている、敷地と道路の関係が問題となるためです。
私道の共有持分の関係で建物の再建築ができないとわかった際に手続きを行うことも、不可能ではありません。しかし長い年月が経ってしまうと、遺産分割に非協力的な相続人がでてきたり、相続人自体が増えていたりしてなかなか連絡を取り合うことも難しいでしょう。
私道の共有持分は法務局で調べることも可能ですが、確かな情報を得る必要があるため、専門家に相談するのがよいでしょう。
思わぬトラブルを招かないためにも共有持分については慎重に扱おう
不動産の共有持分は、共有者の同意が得られないと活用も売却もできません。共有者同士の話し合いが必要になるため、取り扱いが難しいのが現実です。
所有しているだけで固定資産税も発生してしまうため、共有持分の相続については慎重になる必要があるでしょう。
また、共有持分の登記手続きには特有の計算が必要です。私道の共有持分は確かな情報で相続を行わなければ、のちにトラブルに発展する可能性もあります。共有持分の相続は様々なリスクが考えられるため、専門家への相談がおすすめです。「ひろしま相続・不動産ホットライン」では、相続専門の税理士をはじめ、不動産・相続問題をチームでフルサポートしています。共有持分の放棄や売却・分筆・私道共有持分の調査なども、すべて対応可能です。共有持分の相続がトラブルに発展する前に、ぜひ相続のプロである「ひろしま相続・不動産ホットライン」にご相談ください。