相続で土地を共有名義にするメリットとは?デメリットや対策も詳しく解説
親が亡くなり、土地を相続することになった際、複数の相続人がいる場合は共有名義にするかどうかで悩む方も多いでしょう。土地を共有名義で相続することには確かにメリットがありますが、同時に将来的なトラブルの原因となるデメリットも存在します。
本記事では、相続で土地を共有名義にする具体的なメリットと注意すべきデメリット、さらに共有名義を避けるための対策方法まで詳しく解説していきます。相続手続きを進める前に、ぜひ参考にしてください。
相続における土地の共有名義とは
土地の共有名義とは、ひとつの土地を複数の人が共同で所有している状態を指します。相続が発生した場合、遺産分割協議で特別な取り決めをしない限り、土地は法定相続人全員の共有財産です。そのままの状態で放置していると、共有名義となります。
共有名義では、それぞれの所有者が持つ権利の割合を「共有持分」として登記簿に記載されます。法定相続分に従って相続した場合、配偶者と子2人であれば、配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつの持分です。
遺産分割協議において相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で持分を決めることも可能です。ただし、一度登記された持分を変更するには、相続人全員の同意と改めて登記手続きが必要となります。
遺産分割協議で単独相続を決めれば共有状態は解消されますが、協議がまとまらない場合や、あえて共有名義での相続を選択する場合もあります。
土地を共有名義で相続するメリット
土地を共有名義で相続するメリットとして、以下の点が挙げられます。
● 相続人間の公平性を保てる
● 売却時の税制優遇を最大化できる
● 維持管理費用の負担を分散できる
● 相続手続きが比較的簡単
それぞれ詳しく見てみましょう。
相続人間の公平性を保てる
土地を共有名義で相続する最大のメリットは、相続人間の公平感を保てることです。高額な土地を特定の相続人ひとりが相続すると、他の相続人との間で不公平感が生まれがちです。しかし、共有名義であれば全員が平等に土地の権利を持てます。
特に、遺産の大部分を土地が占めているような場合、共有名義にすることで相続人全員が納得しやすい分割方法となります。また、全員に持分があるためトラブルになりにくいため遺産分割協議がスムーズに進み、相続人同士の関係性を良好に保てる可能性が高まります。
売却時の税制優遇を最大化できる
土地を売却する際、共有名義であれば各共有者がそれぞれ譲渡所得の特別控除を受けられます。居住用財産の譲渡所得の特別控除は1人あたり最大3,000万円ですが、共有名義の場合は共有者の人数分だけ控除額が増えるのです。
例えば、3人の共有名義であれば最大9,000万円までの特別控除が受けられるため、高額な土地を売却する場合は大幅な節税効果が期待できます。被相続人の居住用財産(空き家)を売却する場合の特別控除についても、同様に共有者それぞれが適用を受けられる可能性があります。
維持管理費用の負担を分散できる
土地を所有していると、固定資産税や都市計画税などの税金のほか、管理費用や修繕費用が継続的に発生します。共有名義であれば、これらの費用を共有者間で分担できるため、個々の負担を軽減できるためです。
特に、土地上に建物がある場合や管理に手間がかかる山林などの場合、費用負担の分散は大きなメリットとなるでしょう。共有者全員で協力して土地の維持管理を行えば、単独所有よりも効率的な管理が可能になる場合もあります。
相続手続きが比較的簡単
遺産分割協議で単独相続を決める場合、代償金の支払いや他の財産との調整など、複雑な手続きが必要になることがあります。一方、共有名義での相続であれば、法定相続分または合意した割合に従って相続登記を行うだけで手続きが完了します。
相続人同士で意見が分かれている場合や、すぐに遺産分割の結論を出すのが難しい状況では、とりあえず共有名義で相続しておき、後から改めて協議するという選択肢を取ることも可能です。
土地を共有名義で相続するデメリット
メリットが大きい共有名義での相続ですが、次のようなデメリットがあることも覚えておきましょう。
● 売却や活用に全員の同意が必要
● 相続発生により権利関係が複雑化しやすい
● 管理費用の負担でトラブルが発生しやすい
● 共有持分のみの売却は価値が下がる
それぞれ将来を見据えた検討が必要になります。詳しく解説します。
売却や活用に全員の同意が必要
共有名義の土地を売却するには、共有者全員の同意が必要です。1人でも反対者がいれば売却はできません。土地を有効活用したい場合でも、建物の建築や土地の形質変更などは共有者全員の同意が求められます。
共有者の中に連絡が取れない人がいたり、認知症などで判断能力を失った人がいたりすると、土地の処分や活用が事実上不可能になってしまいます。時間の経過とともに、このような問題が発生するリスクは高まっていくため、早めの対策が必要です。
相続発生により権利関係が複雑化しやすい
共有者のひとりが亡くなると、その人の持分はさらにその相続人に引き継がれます。世代交代が進むにつれて共有者の数が増え、権利関係が複雑になっていくのです。
当初は兄弟3人の共有であったものが、数十年後には甥や姪、さらにはその子どもたちまで含めて十数人の共有状態になってしまうケースも珍しくありません。共有者が増えるほど、全員の意見をまとめることは困難になります。
管理費用の負担でトラブルが発生しやすい
固定資産税などの維持費用は、共有者全員に連帯納税義務が課せられます。本来は持分割合に応じて負担すべきものです。しかし、一部の共有者が支払いを拒否したり、支払い能力がなかったりすると、他の共有者が肩代わりしなければなりません。
また、土地の管理方法や修繕の必要性について共有者間で意見が分かれることも多く、誰がどの程度の費用を負担するかでトラブルになるケースが頻発しています。ひとりあたりの負担は減るものの、誰が納めるのかのトラブルにつながりやすい点は注意が必要です。
共有持分のみの売却は価値が下がる
自分の共有持分だけであれば、他の共有者の同意なしに第三者に売却することは法的に可能です。しかし、共有持分のみの購入を希望する買い手を見つけるのは困難で、仮に売却できたとしても通常の土地価格よりもかなり安い価格になってしまいます。
共有持分の買取を専門とする業者もありますが、一般的に市場価格の3割から5割程度です。共有持分のままでは、経済的なメリットは少ないのが現実です。
土地の共有名義を避ける方法
土地の共有名義を回避する方法は、相続発生前と発生後で異なります。それぞれ詳しく見てみましょう。
相続発生前の対策
相続発生前には、次の2つの対策が考えられます。
● 遺言書による指定
● 生前の不動産売却
これらは被相続人が行うべきことであり、相続人がどうにかできるものではありません。生前に対策しておく重要性を説いて、準備してもらうようにしてください。
遺言書による指定
被相続人が生前に遺言書を作成し、土地の相続方法を明確に指定しておくことで、共有名義を避けることができます。特定の相続人に土地を相続させ、他の相続人には代わりの財産を遺すという方法が一般的です。
遺言書を作成する際は、遺留分を侵害しないよう注意が必要です。公正証書遺言にしておけば、遺言の有効性について争いになるリスクも低減できます。自筆証書遺言でも書式が守られていれば問題はないものの、より確実に効力を発揮させたいのであれば公正証書遺言を作成しましょう。
生前の不動産売却
被相続人が元気なうちに土地を売却し、現金化しておく方法もあります。現金であれば分割しやすく、相続時のトラブルを避けられるためです。
ただし、居住用の土地の場合は、売却後の住む場所の確保が課題となります。生活できる場所のめどが立ってから、不動産の売却をしましょう。
生前贈与として段階的に土地の持分を相続人に移転することも可能ですが、贈与税の負担を考慮する必要があります。
相続発生後の対策
相続発生後にできる対策としては、以下の3つがあります。
● 代償分割
● 換価分割
● 分筆による現物分割
順番に解説します。
代償分割
代償分割とは、土地を特定の相続人ひとりが相続し、その人が他の相続人に対して現金(代償金)を支払う方法です。土地を活用したい相続人がいる場合や、資金力のある相続人がいる場合に適しています。
代償金の算定は土地の評価額をもとに行います。評価方法によって金額が変わるため、不動産鑑定士による評価を取得することが望ましいでしょう。
換価分割
換価分割とは、土地を売却して現金化し、その売却代金を相続人間で分割する方法です。誰も土地を必要としない場合や、維持管理が困難な場合に有効です。
売却には時間がかかる場合があるため、相続税の申告期限との関係で注意が必要になります。また、譲渡所得税の負担も考慮しなければなりません。総合的な税負担が重めになるため、活用するかどうかは税理士に相談すると良いでしょう。
分筆による現物分割
分筆による現物分割とは、土地を物理的に分割して、それぞれの相続人が単独で所有する方法です。こうすることで所有権のある土地が決定されるため、共有名義ではなくなります。ただし、分筆後の各土地が独立して利用できる形状・面積である必要があります。
都市計画法や建築基準法などの法的制限により、分筆が認められない場合もあるため、事前に確認が必要です。同時に、分筆には測量費用や登記費用がかかることも考慮しておきましょう。
共有名義の土地を解消する方法
もし、共有名義の土地を有しており、なんとしたいと考えている場合は以下の方法を検討してみましょう。
● 共有者間で持分譲渡する
● 共有物分割請求を申し立てる
● 第三者へ売却する
共有者間で持分譲渡する
持分譲渡とは、他の共有者から持分を買い取って単独所有にする方法です。親族間での取引であれば、市場価格よりも低い価格での譲渡も可能です。持分の価格算定や支払い方法について、事前に十分な協議を行いましょう。
また、著しく低い価格の場合は贈与税が課税される可能性があります。支払う税額も考慮したうえで、持分譲渡するかどうかを判断してください。
共有物分割請求を申し立てる
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に共有物分割請求の調停を申し立てることができます。不動産の共有状態を解消する目的の請求で、単独所有となるか分割でそれぞれの所有にするかを求めるものです。
調停で合意すればそれで終わりですが、合意に至らない場合は、審判により裁判所が分割方法を決定します。裁判所は現物分割を優先しますが、不可能な場合は競売による換価分割を命じることもあります。
第三者へ売却する
共有者全員の合意により、土地全体を第三者に売却する方法です。市場価格での売却が期待でき、共有関係を完全に清算できます。ただし、売却代金の分配方法や売却時期について、事前に共有者間で合意しておくことが必要です。
まとめ
相続で土地を共有名義にすることには、公平性の確保や税制優遇の活用といったメリットがある一方で、将来的な権利関係の複雑化や処分の困難さというデメリットも存在します。
短期的には共有名義が最適な選択に見えても、長期的な視点では多くの問題を抱える可能性があります。相続が発生した際は、将来のことも十分に考慮した上で慎重に判断することが大切です。
共有名義を選択する場合でも、将来の解消方法や管理方法について相続人間で十分に話し合っておくことをおすすめします。専門家のアドバイスを受けながら、最適な相続方法を検討してください。
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